8月 ― 2006年09月01日
「cure jazz」 UA × 菊地成孔 ― 2006年09月04日
UAはボ・ガンボスの曲を歌っても童謡を歌ってもUAの世界になってしまって凄いのだが、このジャズアルバムはもうひとつだった。全体に都会的でお洒落な雰囲気を出そうとしているところがいけないんじゃないか。UAのオリジナリティは動物的というか土着的なパワーを洗練したような表現にあるのであって、都会的洗練を目指したらそっちにはもっと上がいっぱいいるだろうという気がする。このアルバムの中でもクールな曲じゃなくてアフロな感じのリズムの曲では良さが出てると思う。
「what's going on」 マーヴィン・ゲイ ― 2006年09月07日
ソウルの歴史的名盤ということで買ってみた。ソウル界初のコンセプトアルバムだそうで、全体に統一感がある。曲の雰囲気はどこかで聴いたことがある。ちょっと跳ねたミディアム16ビート、メジャーセブンスコードのギターカッティング、ストリングス。昔のタツローだ。タツローさんはこれをやりたかったのか、なるほど。リラックスして聴ける曲ばかりだが、注意して聴いてみると実はいろいろと凝ったアレンジで飽きない。
歌い方は柔らかくて落ち着いているし、美しく完成されたサウンドなので、そういう曲の常としてあまり内容のないラブソングかと思ったら、戦争や環境問題のことを歌っているのだった。恐れ入りました。これはたしかに聴く価値がある名盤だ。
この前「Mercy Mercy Me」が車のコマーシャルに使われていたが、この曲には(Ecology)という副題が付いている。歌詞も環境汚染の話である。車はあまりエコロジカルなものじゃないのだけど、あのコマーシャルを作った人はどういうつもりなんだろうか。
グレンリヴェット12年 ― 2006年09月08日
グレンリヴェットは香りがよくておいしいけど、これならブレンデッドウィスキーを飲んでる感じとそんなに違わないし、麦焼酎でもいいと思う。シングルモルトを飲む醍醐味みたいなものはあまり感じられない。アイラ産のボウモアの方が強烈で面白い。それにしても2種類飲んだだけで、なるほどシングルモルトの個性というのは幅広いということがよくわかって感心した。スーパーの酒売り場にこんな世界があったとは。
ところで買ってきたグレンリヴェットの箱を開けてみると、中におまけのミニチュアボトルが入っていた。これは「グレンリヴェット12年フレンチオークフィニッシュ」で、オーク樽に詰めて香りを付けたもののようだ。飲んでみるとたしかに檜風呂みたいな白木の香りがしておいしかった。
「PARADE」 スガ シカオ ― 2006年09月13日
去年の夏、3週間のロングバケーションをとったのだが、ほとんど家にいてTVやラジオで高校野球を見たり聞いたりしていた。その時に朝日放送がテーマソングにしていたのがこのアルバムの1曲目「奇跡」で(近畿地方以外の方はご存知ないかもしれないが、当地では民放でも全試合を放送している)、「いっまー、きせーきがー」というフレーズが耳にこびりついた。今年はスキマスイッチの曲だったが、どことなく去年のスガシカオに似ていたような気がする。
高校野球中継の時に流れていたのは「奇跡」のサビだけで爽やかな印象だったが、曲全体を聴いたら高校野球のイメージとはかけはなれた屈折した歌だった。二面性があって面白い曲だ。
このアルバムは他にもポップな曲が多くてわりと名作。前作「TIME」のプリンスっぽい密室的な雰囲気とはちょっと違う。演奏者をチェックしてみると、「TIME」では10曲中4曲しかドラムが使われていなくて打ち込みのリズム主体だったのに対して、今回はほとんどの曲にドラムが入っている。良いことである。
村上春樹がスガシカオの歌詞をほめているが、僕はあまり好きではない。メロディーに対する歌詞の載せ方も常に字余り気味で無理がある。でも音楽としてはよくできてるし、こういうファンク系のサウンドで頑張っている人は最近少ないのでがんばってもらいたい。
アマゾンで「初回限定DVD付き盤」を安売りしていて普通のと60円しか違わなかったのでDVD付きを買った。4曲のプロモーション映像が入っていたが、僕はライブ以外の音楽ヴィデオにほとんど興味が持てない。「奇跡」だけはライブ風映像だったけど、音はCDのままだし。60円だったからぎりぎり許すけど、100円だったらちょっと腹が立つ。定価だと500円くらい取るから絶対に買わない。
「かんたんに幸せになりたい」 犬丸りん (幻冬舎文庫) ― 2006年09月18日
「Q 幸福とは何か、教えてほしい」「A 幸せについて分析することから不幸は始まる」といった問答に数駒の漫画がついていて、時々短いエッセイも挟まる。自由な構成のかなり面白い本だ。漫画の主人公の「なると」は眼がクリクリしたおじゃる丸そっくりの幼児である。ほかのキャラや世界観もおじゃる丸と似ているが、性的欲望に関する身も蓋もないギャグなんかもあって大人向きである。というより、「おじゃる丸」というのはこういう犬丸ワールドを子ども向けにアレンジしたものだったわけですね。
読み返してみたらやっぱり面白くて何度も笑ってしまったが、作者が現実の世界をかなり醒めた目で見ていることにも気づく。あとがきのような文章で、この本の締め切りに追われて一時鬱状態になったとも書いている。そして「かんたんに幸せになる本を書きつつ不幸になっている自分が情けなかった」、「私はかんたんに不幸にもなってしまうタイプなのだ」という。
あれだけユニークで面白いものを創り出すには、かんたんに幸せにも不幸にもなるという「振れ幅」が必要なのかもしれない。まったりまったり幸せに暮らしているだけでは、多くの人に何かを伝える動機も表現力も持てないのではないだろうか。じゃあ、そういう動機と表現力を持った人は実は不幸ではないのか。子ども向けの「おじゃる丸」でも、そのことは漫画家「うすいさちよ」として表されている。
「WAVE」 YUKI ― 2006年09月21日
前作「joy」と同様にカラフルで楽しいアルバム。ポップな曲ばかりで、しかも曲ごとに個性があって飽きない。YUKIという人はそれぞれの曲のイメージをハッキリと持っていて、歌詞と声とサウンドを組み合わせてそれを表現することに成功しているのだと思う。今のJポップ業界では誰もついて行けてないんじゃないか。
YUKIの歌詞は言葉が自由過ぎて、何を言わんとしてるのか僕にはよくわからないのだが、なんかくっきりとしたイメージは伝わってくる。YUKIのサイトに本人による解説があったので読んでみると、言葉で何かを伝えようとしているのではなく、自分の中のイメージを言葉で断片的に表現しているだけのようだ。
「あおぞら」という曲は漫画「浮浪雲」に近いと言っているのを読んで、なるほどと思った。他の曲(「夏のヒーロー」)の歌詞にも「はぐれぐも」という言葉が出てくるのだ。「入道雲」や「うろこ雲」のような普通の言葉として使われているが、「はぐれぐも」というのは一般名詞じゃなくてジョージ秋山の造語だ。国語辞典には載ってない。そういえば、メランコリニスタって何?イタリア語?と思っていたが、YUKIの造語だったのか。
「はぐれぐも」が出てくるのはどの曲だったっけと歌詞カードを読んでいて気づいたのだが、ほとんどの曲に空、雲、雨、太陽、星、月といった空関係の言葉が使われている。YUKIの曲ののびのびとしたイメージはそのへんにも現れている。いいね!
「富の未来」 アルビン&ハイジ・トフラー ― 2006年09月25日
僕は20年くらいまえにトフラーの「第三の波」と「未来の衝撃」を読んでものすごく感心した。トフラーは、現代社会が脱産業化して、核家族や正社員のフルタイムの仕事や画一的な教育や民族国家までもが「崩壊」すると予測していた。
今の世界はかなりトフラーの言ったとおりになりつつある。「富の未来」でも基本的には「第三の波」と同じことを言っているのだが、昔の予測が実現しつつある事例が豊富で説得力がある。これから先もまだまだ激しい変化があるようで、大変だ。
読んでいると、僕が経済や社会について言っているのと同じことがたくさん出てくる。僕は自分なりの道筋で一所懸命考えたつもりだったが、辿りついたところはトフラー師匠の掌の上だったのだった。
科学技術の進歩に対して楽観的過ぎるんじゃないかと思いつつ読んでいたら、悲観するための材料は山ほどあるが悲観ばかりしていないで考えよと戒める文章まで書いてあった。恐れ入りました。
今我々がどこにいて、どっちに向かえばいいのかを考えるために絶対必要な地図みたいな本だ。この前の「パワーシフト」はあまり印象に残っていないが、今回は面白かった。
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