「In My Element」 ロバート・グラスパー2017年03月16日

ヒップホップの要素を取り入れて新しいジャズを生み出しているロバート・グラスパー。ピアノ・トリオでさらさらと耳になじむメロディーを演奏しているので聴きやすいが、よく聴くといろいろ新鮮なことをやっている。特に、スピード感のあるリズムの展開と、左右それぞれの手が弾くフレーズの絡み合いが印象に残る。

かなりアクロバティックなこともやっているわりに、無機的なテクニック志向にならず音楽的な美しさも保っていて素晴らしい。アルバム全体の雰囲気として、静かでゆったりした感じと、細かい符割による疾走感が両立しているところがカッコイイ。かなり気に入りました。

「The Epic」 カマシ・ワシントン2016年09月20日

カマシ・ワシントン本人のテナーにトロンボーンとトランペットを加えた3管が中心のバンドだが、半分ほどの曲では、そこにストリングスや10人以上のコーラスが入って壮大なサウンドになる。

基本はファンクっぽいジャズで、16ビートのフュージョンみたいな曲もあれば、ソウルフルなボーカル曲も何曲かあるし、ドビュッシー「月の光」もやっていてバラエティもある。CD3枚組、17曲3時間弱という量と演奏の密度に圧倒されるが、小難しくて判りにくいような曲は無いので、楽しく聴ける。

「Emily's D+Evolution」 エスペランサ2016年03月14日

これは凄い、大傑作。ジャズ、ラテンポップ、ジャズとクラシックの融合、ソウルというスタイルの変遷を経て、今回はロックを取り入れた。ファンクやジャズの要素もあり、シュールなアレンジもありながら、全体としてはポップ。創造的で技術的にも難しいことをやっているのに判りやすく聴かせる、すごい才能だ。

ちなみに、Emilyはエスペランサのミドルネームで、夢に出てきたオルター・エゴ(もう一人の自分)だそうで、D+Evolutionはevolution(進化)とdevolution(退化)をくっつけたもの。

「We Get Requests」 オスカー・ピーターソン2015年11月22日

村上春樹が「村上さんのところ」で、良い音のオーディオとは?という質問に対して、「We Get Requests」のレイ・ブラウンのベースの音がしっかり再生されることと答えていた。ググってみると、ジャズ好きの間では音が良いことで有名な名盤のようだ。聴いてみると確かにスバラシく音が良い。

音楽の録音が良いというのは、簡単にいうと各楽器の音が鮮明で、楽器ごとの音量や残響のコントロールが適切ということだ。僕がいろんなレコードやCDを聴いた経験で思うには、録音の良いアルバムは演奏も良い。録音は悪いけど演奏は良いというのはいくらでもあるのに対して、録音が良いけど演奏はダメというのは聴いたことが無い。

昔から、なんでそういうことになるのか考えているのだけど、演奏者に対する期待というのがまずあって、そこに優秀なレコーディング・エンジニアの技術とモチベーションと、機材と時間が投入されているということなんだと思う。そういうわけで、録音の良いレコードは名盤であるという法則が成り立つ。

さて、内容はタイトル通り、ファンのリクエストで選ばれたスタンダード曲をピアノトリオで演奏している。うまくて楽しそうに弾いている名演なのだが、ピーターソンはテクニックに余裕があり過ぎて、やや細かい技をひけらかしているようにも聴こえる。ちょっとクドイ。抑えめに弾いている曲は文句無しに良い。

ちょっと気になるのは、「コルコバード」と「イパネマの娘」というボサノバの曲を小節の頭にアクセントをつけたリズムで演奏していること。ボサノバじゃなくなっている。ボサノバのリズムが嫌いなのかな。

「Seven Classic Albums」 ハンプトン・ホーズ2015年07月04日

ハンプトン・ホーズというピアニストのことはよく知らなかったのだけど、「Everybody Likes Hampton Haws Vol.3」というアルバムの有名なワニがいい感じに寛いでいるイラストのジャケットが気に入ったので買おうかと思っていたところ、この「Seven Classic Albums」が出た。4枚のCDにアルバムが7枚も入っていて千円程度で買える。これはありがたい。

聴いてみると、どのアルバムもあのワニのイラストのとおりの雰囲気で、とても良い。ホーズさんの演奏は気難しさや押し付けがましい感じが全くなくて、リラックスして聴ける。しかも、リズムのノリが良いので、ずっと聴いていても飽きない。

自分のピアノトリオでやっているやつも良いし、トロンボーンのカーティス・フラー、ベースのチャールズ・ミンガス、スコット・ラファロ、ギターのバーニー・ケッセルがそれぞれ別のアルバムに登場するのだが、どれも良い。

「70 STRONG」 スティーブ・ガッド・バンド2015年06月07日

このアルバム、めちゃ気に入りました。

僕は'86年に出たガッド師匠のリーダー作「ガッド・ギャング」を愛聴しているのだが、それとはちょっと違う。ガッド・ギャングはメロディーがはっきりしていてソウルっぽい音楽だったが、このアルバムはメロディーがほとんど目立たないし、コードも1つか2つを延々と繰り返すことが多いところはファンクですかという感じ。

ベースが派手では無いのでファンクとも違うのだけど、とにかくリズム重視で一貫している。ドラムの神様のリーダー作にふさわしいサウンドともいえる。かといって、ドラムの手数が多いわけでもなく、ガッド師匠は地味なパターンを刻み続けています。要するに、このノリを聴けってことですね。若い頃にドラムを叩いていた僕としては、そうそうこれこれと思ってしまう理想的な音楽だ。こういうのを待っていました!

このゆったりとしたリズム感に興味が無い人には退屈かもしれないが、僕はずーっと聴いていられる。英語でいうところのメスメライジング。それぞれの曲も長いし、11曲74分、CDの容量フルに入っていて満足。バンドのアンサンブルも非常に良い。

「Something for Lester」 レイ・ブラウン2015年04月26日

村上春樹がレイ・ブラウンのベースは良いと言っていたので、リーダー作を買ってみた。たしかに、なかなか良いね。

シダー・ウォルトンのピアノ、エルヴィン・ジョーンズのドラムとのトリオ。曲調は軽快というかポップな雰囲気で聴きやすく、さすがに実力者トリオの余裕が感じられる演奏で素晴らしい。3人の息もピッタリ合っている。

ピアノが左、ドラムが右、ベースが真ん中という変なミキシングはちょっと気になる。ベーシストのリーダー作だからベースを真ん中にしたんだろうけど、ドラムを片側に寄せるのは落ち着かない。

「Baroque」 大西順子2012年11月04日

菊地成孔のラジオ番組「粋な夜電波」のポッドキャスト(2012年10月14日分)を聴いていたら、引退を表明した大西順子さんがゲストで出ていた。自宅にあるピアノやらフェンダーローズやらも使ってくれる人に差し上げますと言って、応募方法も告知していた。ご本人談によると、自分が目指す演奏をするために必要な身体をこれ以上キープできないから引退するというような、一流アスリート的引退理由であった。

昔「Junko Ohnishi Live At The Village Vanguard」(1994)を聴いて、すごいパワフルな演奏だなと思った記憶があるが、あれからもう20年近く経つのか。興味が湧いたので最後のアルバム「Baroque」を聴いてみると、やっぱりとてもパワフル。居酒屋でよくかかっているようなスムースジャズではなく、すごい迫力でガンガン迫ってくるサウンド。これは確かにいつまでも続けられないのかもしれない。この先、身体的に衰えたとしても、それなにの表現方法はあると思うのだけど、そういうのは好きじゃないらしい。

村上春樹と小澤征爾も彼女の引退を惜しんでいた。

「Very Best of Charlie Parker」 チャーリー・パーカー2012年05月06日

最近、個人的にジャズブーム継続中なので、モダンジャズの開祖であるチャーリー・パーカーも聴いておこうと思ってベスト盤を探してみた。5枚組とか13枚組とかいろいろあるが、そんなにマニアックに聴きたいわけではない。

曲名を見て、菊地成孔がラジオのオープニングに使っている「Bluebird」、矢野沙織がコピーしていた「Donna Lee」、村上春樹の「ピンボール」に出てくる「Just Friends」と短編のタイトルに引いている「On A Slow Boat To China」、チャカ・カーンが歌っていた「A Night In Tunisia」、ビバップの代表的名曲と言われている「Comfirmation」も入っているこの2枚組を買った。開けて見ると、菊地成孔と矢野沙織がライナーノーツを書いていた。

'40年代の録音だから音質はローファイ、4ビートのリズムはシンプルで、1曲3分前後で終わる気軽さもあって、ぼおっと聴いているとほのぼのした感じだが、良く聴くと難しそうなフレーズを楽々と表情豊かに演奏していて凄い。これは末永く楽しめそうだ。

「'FOUR' & MORE」 マイルズ・ディヴィス2012年04月19日

僕は20年以上前からマイルズの「My Funny Valentine」というライブ盤を愛聴しているのだが、なぜか同じライブの別の曲が入ったこのアルバムは今まで聴いていなかった。「My Funny Valentine」はバラードばかりなので、えらく静かなコンサートだなあと思っていたのだが、この「'FOUR' & MORE」はアップテンポで印象がぜんぜん違う。こっちもカッコイイ。というか、両方続けて聴くとコンサートの全体像が分かるわけだな。両方入った「The Complete Concert '64」というCDもちゃんとある。