日記 ― 1999年06月04日
保育料を振り込むために銀行に行く。まず機械でお金を下ろそうとすると、ディスプレイに「今月は誕生月ですね、おめでとうございます」と表示される。どちらかと言うと、余計なお世話である。窓口へ行くと女性行員の制服が先週と違うのに気付いた。衣替えで半袖になったのだ。しかし男の行員はなぜか長袖のシャツを着ている。大阪の夏は半袖ノータイで過ごすのが合理的というものである。僕は夏はポロシャツで会社に行きそのまま仕事をしている。Tシャツの奴もいるが、僕はTシャツで会社に行ったことはない。ネクタイを締めるのに較べると同じようなもんだが、襟の有り無しが僕の服装における公私の境目である。
銀行の次は例によってミスドに行き、ドーナツ2個とコーヒーを注文する。コーヒーは5分ほどかかりますがよろしいですか、と訊かれる。よろしいどころか歓迎です。いれたてが飲めてラッキーである。コーヒーがくるまでドーナツを横目で見ながら本を読む。コーヒーが来たので、クリスピーシナモンとトーフドーナツを食べる。ドーナツとは穴の周りに衣をつけて揚げたものである。そう考えるとドーナツはシュールな食べ物だ。
ミスドの隣の宝くじ売り場でサマージャンボを買う。一等賞金が上がって当たる確率は減っているのだ。宝くじなんか当たるはずがないので買わないことにしているのだが、奥さんが買うというので僕も付き合うことにした。一等が当たったら家を買おう。広い家は掃除が大変そうだ。他に使い道を思いつかない。僕が欲しいのはお金より時間だな、などと考えつつ向かいの本屋に行き、新書を一冊買う。
家まで歩いて帰る途中、トラックの荷台に登っていくショベルカーの横を通る。息子と同じくらいの歳の男の子が熱心に見ている。隣に母親らしき人がいる。そう言えば、僕の一番古い記憶は3才くらいの時にブルドーザーを見ていたことである。男の子は紺のリボンの付いた麦わら帽とセーラーカラーの制服を着ている。すぐ近くに幼稚園があるので、そこの制服だろう。息子の保育園では体操服が基本である。銀行員=幼稚園児=フォーマル、メーカーの技術者=保育園児=カジュアル。
家に帰り、天気が良いので洗濯をする。
銀行の次は例によってミスドに行き、ドーナツ2個とコーヒーを注文する。コーヒーは5分ほどかかりますがよろしいですか、と訊かれる。よろしいどころか歓迎です。いれたてが飲めてラッキーである。コーヒーがくるまでドーナツを横目で見ながら本を読む。コーヒーが来たので、クリスピーシナモンとトーフドーナツを食べる。ドーナツとは穴の周りに衣をつけて揚げたものである。そう考えるとドーナツはシュールな食べ物だ。
ミスドの隣の宝くじ売り場でサマージャンボを買う。一等賞金が上がって当たる確率は減っているのだ。宝くじなんか当たるはずがないので買わないことにしているのだが、奥さんが買うというので僕も付き合うことにした。一等が当たったら家を買おう。広い家は掃除が大変そうだ。他に使い道を思いつかない。僕が欲しいのはお金より時間だな、などと考えつつ向かいの本屋に行き、新書を一冊買う。
家まで歩いて帰る途中、トラックの荷台に登っていくショベルカーの横を通る。息子と同じくらいの歳の男の子が熱心に見ている。隣に母親らしき人がいる。そう言えば、僕の一番古い記憶は3才くらいの時にブルドーザーを見ていたことである。男の子は紺のリボンの付いた麦わら帽とセーラーカラーの制服を着ている。すぐ近くに幼稚園があるので、そこの制服だろう。息子の保育園では体操服が基本である。銀行員=幼稚園児=フォーマル、メーカーの技術者=保育園児=カジュアル。
家に帰り、天気が良いので洗濯をする。
日記 ― 1999年06月26日
台所の換気扇が壊れて排気側の扉が開かなくなったのでなんとかしなくてはならない。ホームセンターで調べたら、安いヤツが3千円、高い方が6千円くらいだった。高い方は静かなのが取り柄である。なるほど、よく見ると結構凝った形のファンが付いている。どちらかに買い替えようかとも思う。
換気扇を取り外すと台所の壁に24センチ四方の穴がぽっかりとあいて空が見える。それだけで家の中が結構明るい感じになる。ファンとカバーを外した換気扇本体を家の裏に持って行き、コンクリートの地面に置いて観察する。四角い枠にモーターと電源コードとスイッチが付いている。排気側に2枚の扉があってモーターのスイッチに連動して開閉するようになっているのだが、扉の軸が折れたために動かなくなっていたのだった。
今の家に引っ越してきてから8年だが、それ以前にも何年かは使われていただろうから、もう換気扇の寿命が尽きたのだと考えられないこともない。扉や枠の部分は料理の煙に長年さらされてべっとりとヤニがついている。買い替えて新品を取り付けるのは気持ちよさそうである。でも、ファンもカバーもモーターもスイッチも問題がないのに、買い替えると全部ゴミになってしまう。この換気扇を捨てるには、本当に寿命が尽きて修理不能であることを確かめなくてはならない。何かが不可能であることを確かめるには、可能であるという仮定に基づいて積極的に行動してみる必要がある。
というわけで、換気扇を修理してみることにする。近くにボロ布があったので、これでベトベトの扉を掴む。ボロ布は息子が着古したパンツで、お尻のところにくまの顔が描いてある。折れた軸を支えていたのは枠とは別の部品だった。この部品を留めているネジを外し、ネバネバをくまちゃんパンツで拭き取ってからよく見ると、軸の通っていた穴がある。細長いスリット状の穴だ。ここに裏から木ネジを通せば軸になるかも知れない。
道具箱からテキトーに探した木ネジをさっきの部品に通してみると、これが誂えたようにしっくりと回るじゃないか! しかも、ちゃんと木ネジの頭が収まるような凹みまである。後は元通りに組み立てるだけである。組み立てた。扉の作動に影響しそうなところのヤニを2枚目のパンツで拭き取り、台所の壁に元通りに取り付けて作動を確認する。オーケーである。意外にうまくいったので気分がいい。
夕方、一家でショッピングセンターへ行く。車の中で娘が「手をたたきましょ」とか「カエルのうた」とか「犬のおまわりさん」を歌うので一緒に歌う。息子は寝てしまう。到着しても息子が起きないので僕も車で待っていることにする。シートを倒しフロントパネルに足を乗せてくつろいでいるうちに僕も眠りそうになる。夢うつつの状態で色々と画期的なことを思い付くが、眠って忘れてしまう。
しばらくして奥さんと娘が一旦戻って来る。息子を起こしてクツを履かせようとすると、寝ぼけて片方だけ娘の小さなクツを一所懸命履こうとしている。子供たちの服や帽子を買い、奥さんは水着を買い、僕はパフィーの「Fever Fever」とTriceratopsの「The Great Skelton's Music Guide Book」と赤瀬川原平の「優柔不断術」を買う。息子が持っていた小さいおもちゃの1センチくらいの部品が無くなっていることに気付き、それまで歩いた経路を逆に辿っていって発見する。
帰りに道路沿いのファミリーレストランで夕食を食べる。息子はお子様ランチに付いていたオモチャのバッタを組み立てるのに夢中で、なかなか食べようとしないので叱る。隣のテーブルに息子の同級生のケンタ君の一家が座る。息子はオモチャに気をとられて食べるのが遅く、ケンタ君一家の方が先に帰って行った。娘も先に食べ終わって店の中を歩き回って色んな人に笑いかけている。笑いかけられた人も笑っている。僕は子供たちの食べ残しを片付けて満腹になった。
換気扇を取り外すと台所の壁に24センチ四方の穴がぽっかりとあいて空が見える。それだけで家の中が結構明るい感じになる。ファンとカバーを外した換気扇本体を家の裏に持って行き、コンクリートの地面に置いて観察する。四角い枠にモーターと電源コードとスイッチが付いている。排気側に2枚の扉があってモーターのスイッチに連動して開閉するようになっているのだが、扉の軸が折れたために動かなくなっていたのだった。
今の家に引っ越してきてから8年だが、それ以前にも何年かは使われていただろうから、もう換気扇の寿命が尽きたのだと考えられないこともない。扉や枠の部分は料理の煙に長年さらされてべっとりとヤニがついている。買い替えて新品を取り付けるのは気持ちよさそうである。でも、ファンもカバーもモーターもスイッチも問題がないのに、買い替えると全部ゴミになってしまう。この換気扇を捨てるには、本当に寿命が尽きて修理不能であることを確かめなくてはならない。何かが不可能であることを確かめるには、可能であるという仮定に基づいて積極的に行動してみる必要がある。
というわけで、換気扇を修理してみることにする。近くにボロ布があったので、これでベトベトの扉を掴む。ボロ布は息子が着古したパンツで、お尻のところにくまの顔が描いてある。折れた軸を支えていたのは枠とは別の部品だった。この部品を留めているネジを外し、ネバネバをくまちゃんパンツで拭き取ってからよく見ると、軸の通っていた穴がある。細長いスリット状の穴だ。ここに裏から木ネジを通せば軸になるかも知れない。
道具箱からテキトーに探した木ネジをさっきの部品に通してみると、これが誂えたようにしっくりと回るじゃないか! しかも、ちゃんと木ネジの頭が収まるような凹みまである。後は元通りに組み立てるだけである。組み立てた。扉の作動に影響しそうなところのヤニを2枚目のパンツで拭き取り、台所の壁に元通りに取り付けて作動を確認する。オーケーである。意外にうまくいったので気分がいい。
夕方、一家でショッピングセンターへ行く。車の中で娘が「手をたたきましょ」とか「カエルのうた」とか「犬のおまわりさん」を歌うので一緒に歌う。息子は寝てしまう。到着しても息子が起きないので僕も車で待っていることにする。シートを倒しフロントパネルに足を乗せてくつろいでいるうちに僕も眠りそうになる。夢うつつの状態で色々と画期的なことを思い付くが、眠って忘れてしまう。
しばらくして奥さんと娘が一旦戻って来る。息子を起こしてクツを履かせようとすると、寝ぼけて片方だけ娘の小さなクツを一所懸命履こうとしている。子供たちの服や帽子を買い、奥さんは水着を買い、僕はパフィーの「Fever Fever」とTriceratopsの「The Great Skelton's Music Guide Book」と赤瀬川原平の「優柔不断術」を買う。息子が持っていた小さいおもちゃの1センチくらいの部品が無くなっていることに気付き、それまで歩いた経路を逆に辿っていって発見する。
帰りに道路沿いのファミリーレストランで夕食を食べる。息子はお子様ランチに付いていたオモチャのバッタを組み立てるのに夢中で、なかなか食べようとしないので叱る。隣のテーブルに息子の同級生のケンタ君の一家が座る。息子はオモチャに気をとられて食べるのが遅く、ケンタ君一家の方が先に帰って行った。娘も先に食べ終わって店の中を歩き回って色んな人に笑いかけている。笑いかけられた人も笑っている。僕は子供たちの食べ残しを片付けて満腹になった。
日記 ― 1999年06月30日
会社でCAD用ワークステーションの前に座っていると、たて続けにくしゃみが出た。雨の日は冷房が効きすぎるのだ。鼻が詰まって頭も少し痛くなる。なんで夏に寒い思いをせなあかんねん! 僕はあまり冷房が好きじゃない。
昼に外に出てみると、雨が止んで日が差している。湿度が高いので爽やかとは言えないが、冷房で凍えているよりずっと気持ちがいい。空には小さな入道雲が見える。歩きながら折り畳み傘を伸ばした状態で日に当てていると、だんだん乾いていくのがわかる。7、8分歩いたところにある小さなレストランに入る。
すぐそばに女子大があるので昼は混んでるかと思ったが、いくつかあるテーブルのうち半分も埋まっていなかった。誰もいないカウンターに座る。黒板にチョークで書かれた「マグロのカルパッチョ¥600」に心が動くが、それだとワインも飲みたくなるのでやめておく。今考えると、飲んでも良かったかな。ともかく、店の前に書いてあったパスタセットというのを頼んでみた。
カウンターの向かいは窓になっていて、窓際にCDが30枚くらい並んでいる。「playing」と表示された台にニール・ヤングのCDのジャケットが置いてあるので、今かかっているのが奥田民生の好きなニール・ヤングだとわかる。何年か前の夜に来た時はボブ・マーリーがかかっていた。
本を読みながら待っていると、ミネストローネと、トリとキノコと茄子とパンのアンチパストと、アサリのスパゲティが順番に運ばれてくる。料理と料理の間も本を読んで待つ。アンチパストもパスタもオリーブオイルの香りが良くておいしかったが、パスタの量は控えめだ。女子大生向けか。フォークだけを使ってアサリの身を貝殻から外す方法を発見する。身を押さえつけたままでフォークをクルッと回すだけ。
料理を運んでくれた女性がカウンタの内側でお皿を洗ったり電動ミルでコーヒー豆を挽いたりテキパキと働いている。水道の栓を閉める時にキュッと歯切れよい音がする。彼女は白いサマーセーターの上に紺のエプロンをして背筋がピンと伸びている。髪をポニーテールにしていて、耳たぶに小さなピアスを付けている。彼女がCDを交換する。今度もニール・ヤングだった。最後にシェフ自らがコーヒーをいれてカウンタに乗せてくれる。深煎りのおいしいコーヒーだった。これで千円は安い。
店を出て世界最大の古墳の前を歩く。高さはビルの5階くらいだが、面積はクフ王のピラミッドより大きいのだ。ちょっとした丘である。これだけの土をどこから運んだんだろうと考える。すぐに答が判った。周りの濠を掘った分の土を盛ったのだ。古墳は鬱蒼とした森に覆われている。今は立ち入り禁止だが、江戸時代には誰でも出入りできるハゲ山だったのだそうだ。このあたりの土地は人間がいなければ100年くらいで全てがあんな森になるのだろう。
昼に外に出てみると、雨が止んで日が差している。湿度が高いので爽やかとは言えないが、冷房で凍えているよりずっと気持ちがいい。空には小さな入道雲が見える。歩きながら折り畳み傘を伸ばした状態で日に当てていると、だんだん乾いていくのがわかる。7、8分歩いたところにある小さなレストランに入る。
すぐそばに女子大があるので昼は混んでるかと思ったが、いくつかあるテーブルのうち半分も埋まっていなかった。誰もいないカウンターに座る。黒板にチョークで書かれた「マグロのカルパッチョ¥600」に心が動くが、それだとワインも飲みたくなるのでやめておく。今考えると、飲んでも良かったかな。ともかく、店の前に書いてあったパスタセットというのを頼んでみた。
カウンターの向かいは窓になっていて、窓際にCDが30枚くらい並んでいる。「playing」と表示された台にニール・ヤングのCDのジャケットが置いてあるので、今かかっているのが奥田民生の好きなニール・ヤングだとわかる。何年か前の夜に来た時はボブ・マーリーがかかっていた。
本を読みながら待っていると、ミネストローネと、トリとキノコと茄子とパンのアンチパストと、アサリのスパゲティが順番に運ばれてくる。料理と料理の間も本を読んで待つ。アンチパストもパスタもオリーブオイルの香りが良くておいしかったが、パスタの量は控えめだ。女子大生向けか。フォークだけを使ってアサリの身を貝殻から外す方法を発見する。身を押さえつけたままでフォークをクルッと回すだけ。
料理を運んでくれた女性がカウンタの内側でお皿を洗ったり電動ミルでコーヒー豆を挽いたりテキパキと働いている。水道の栓を閉める時にキュッと歯切れよい音がする。彼女は白いサマーセーターの上に紺のエプロンをして背筋がピンと伸びている。髪をポニーテールにしていて、耳たぶに小さなピアスを付けている。彼女がCDを交換する。今度もニール・ヤングだった。最後にシェフ自らがコーヒーをいれてカウンタに乗せてくれる。深煎りのおいしいコーヒーだった。これで千円は安い。
店を出て世界最大の古墳の前を歩く。高さはビルの5階くらいだが、面積はクフ王のピラミッドより大きいのだ。ちょっとした丘である。これだけの土をどこから運んだんだろうと考える。すぐに答が判った。周りの濠を掘った分の土を盛ったのだ。古墳は鬱蒼とした森に覆われている。今は立ち入り禁止だが、江戸時代には誰でも出入りできるハゲ山だったのだそうだ。このあたりの土地は人間がいなければ100年くらいで全てがあんな森になるのだろう。
最近のコメント