「スティーリー・ダン Aja作曲術と作詞法」 ドン・ブライトハウプト2015年11月02日

スティーリー・ダンのかなりマニアックなファン向けの本だと思う。僕は21世紀に入ったくらいからずーっとスティーリー・ダンを聴き続けていているので、まあまあ熱心なファンとして、何ヶ所か興味深い指摘や、なるほどそうだったのかと思うところもあった。まあ読んで良かったと思う。パソコンの前に座って、「この曲のこの音がどうだ」といった話が出てくるたびにその曲をiTunesで再生しながら読むのがよいようだ。

しかし、正直なところ読みにくい本だ。タイトルからするとAjaの内容にテクニカルに踏み込むのがテーマのように思えるが、和声の話と歌詞の分析と録音時のエピソードなどを思いつくままに語っているだけでなく、スティーリー・ダンの前後の作品との関連、同時代のポピュラー音楽の状況などについて、話があっちこっちに行ったり来たりして散漫極まりない。曲ごとに章を立てれば良かったんじゃないか。

元の文章が思い入れ過剰なくどい文章であるうえに、翻訳も直訳調でギクシャクしているのが残念。最後に冨田恵一の解説があるが、これは非常に読みやすく判りやすい文章で、本文と対照的だ。

「Sunken Condos」 ドナルド・フェイゲン2012年10月26日

最近ずっとスティーリー・ダンにハマっていて、アルバムをコンプリートしたところで、ドナルド・フェイゲンの新譜が出た。嬉しい。

期待を裏切らず、過去のドナルド・フェイゲンやスティーリー・ダンの作品の雰囲気とクオリティを完全に保っている。新鮮な食材をキリッとしたダシで料理したような味わい。長年同じことをやっていても、マンネリという感じにならない。打込みではなく生の楽器演奏のサウンドとグルーブを聴かせてくれるミュージシャンが絶滅寸前なので、この先も末永くがんばっていただきたいものです。

シングル曲「I'm not the same without you」はスティーリー・ダンの「Aja」に入っている名曲「Peg」に似ている。ベースがカッコイイので練習してみよう。

「Can't Buy A Thrill」 スティーリー・ダン2012年08月30日

スティーリー・ダンのファーストアルバム。なんかユルイ雰囲気のロック。スティーリー・ダンと知らずに試聴機で初めて聴いたとしたら、欲しくならなかったと思う。生ピアノが活躍する曲は、ストレンジャーでブレイクする前のビリー・ジョエルに感じが似ている。

ドナルド・フェイゲン以外にもいろんな人がボーカルをとっているし、得意のややこしいコード進行もまだ控えめで、スティーリー・ダンらしくない。というか、こういう普通のロックから試行錯誤しながら音楽性を突き詰めていった末に「エイジャ」みたいなスティーリー・ダンの音に到達したのだなとわかる。

「countdown to ecstasy」 スティーリー・ダン2012年08月20日

1曲目「菩薩」はブルース進行の軽快なロケンロールかと思いきや、そこはスティーリー・ダンらしくヒネリの効いた展開で面白い。その他の曲も軽快というか緩い雰囲気で「エイジャ」や「ガウチョ」のビシビシにタイトな感じとは違う。哀愁漂うスティールギターが鳴ってカントリーっぽくなったり、簡単なコードパターンを延々と繰り返してファンクっぽくなったりするが、全体としてスティーリー・ダンであるというところが良い。

「The Royal Scam」 スティーリー・ダン2012年08月17日

コード進行の凝り方とかアレンジの洗練とかバックのミュージシャンの演奏の上手さといったテクニカルな面のカッコ良さで、ポピュラー音楽界最高峰に位置するのがスティーリー・ダンである。スティーリー・ダンの名作「エイジャ」と「ガウチョ」は昔から愛聴してきたが、他のはどうだろうと思って聴いてみる。

「エイジャ」「ガウチョ」と同様にうまくてカッコイイが、雰囲気がややソウルというかファンクっぽくて暖かみがある。ベースがチャック・レイニー、ドラムがバーナード・パーディというリズム隊が素晴らしい。スティーリー・ダンらしいクールさでは「エイジャ」「ガウチョ」の方が優るが、このアルバムも非常に良い。

2曲目のイントロはどこかで聴いたような気がして記憶を辿ると、ユーミンの「キャサリン」だった。このアルバムの発表が'76年で、「キャサリン」の入った「流線型’80」は'78年。これは影響を受けているなと思いつつ聴いていると、最後の曲のイントロがまた 「流線型’80」 に入っている「かんらん車」そっくり。他にも細かいところでユーミンの曲に似ているところがいろいろある。松任谷正隆アレンジの元ネタの宝庫なのだった。

「Aja」 スティーリー・ダン2012年08月17日

スティーリー・ダンの作品中、最も高く評価されているのアルバム。コード進行とか演奏技術とかのテクニカルな面で、ポップス界の最高峰だろう。ドラムはいろいろな人が叩いているが、ベースは一曲を除きチャック・レイニー。レイニーさんのベースは音の強弱の付け方が素晴らしい。特に「ペグ」のベースのグルーブが気持ち良い。

表題曲「Aja」では、サックスの大御所ウェイン・ショーターのテンションの低いソロと、ドラムの神様スティーブ・ガッド入魂のソロの対照的な絡み合いなんかも聴ける。他にもラリー・カールトン、ジョー・サンプルなどジャズ、フュージョン界の大物が多数参加。その大物たちが地味な伴奏に徹しているのが何とも素敵で、聴けば聴くほどじわじわと質の高さが判ってくる名盤だ。

「Pretzel Logic」 スティーリー・ダン2012年08月15日

スティーリー・ダンの3作目。だんだんと、スティーリー・ダンらしいタイトなサウンドになりつつあるが、曲は意外にアッサリしていて、軽快かつシンプルにまとまっている。

このアルバムまでバンドの体裁を保っていて、その後はベッカーとフェイゲンの2人がスタジオ・ミュージシャンを集めてアルバムを作るようになる。そう思って聴いてみれば、バンドとしては一応まとまってきたものの、何か物足りない感じはする。後付けの感想かもしれないけど。

「Alive In America」 スティーリー・ダン2012年08月03日

スティーリー・ダンのライブ盤。スタジオで緻密に練り上げたアルバムを作るスティーリー・ダンがどういうライブをするのかと興味津々で聴いたら、スタジオ盤のアレンジをほぼ再現していて感心した。さすがです。スタジオ録音のキッチリした感じもある程度保ちながら、ライブ演奏らしい活き活きとした雰囲気があって、非常に良い。

パワフルでタイトなドラムはデニス・チェンバース、ノリのいいベースはトム・バーニーという人。トム・バーニーって誰?と思って調べたら、マイルズ・デイヴィスのアルバムに参加したこともある人らしい。

「Morph The Cat」Donald Fagen2006年04月15日

ナイトフライ(1982)、カマキリアド(1993)に続くソロ三部作の三作目とのこと。一作目から完結まで24年も経っている。スターウォーズ並みだ。スターウォーズの映像は最初(IV)と最後(III)では全然違うが、ドナルド・フェイゲンの方はサウンドが全然変わらないところがすごい。

相変わらず音質はすごくいい。この音質だけでも聴く値打ちがある。昔ながらのエコーをあまりかけないデッドな録音も渋い。曲はいつものようにカッコいい。バックの演奏はシンプルだがめちゃくちゃ上手くて、リズムのキレが素晴らしい。

そういう完成度はスティーリー・ダンも含めれば30年くらい変わってないわけである。進歩がないような気もするが、ネタのいい寿司屋みたいなもので、旨いものを出し続けているんだから進歩なんてする必要もないのだ。