「戦後史の正体」 孫崎享2012年08月15日

戦後の大物政治家で、何かの嫌疑で失脚したり検察に捕まったりするのは、田中角栄を筆頭とする田中派の系統ばかりだという話は、数年前からネット上でよく目にするようになった。そこまでは明らかな事実だが、その理由としては「田中派の系統の政治家は、保守本流を支える検察やマスコミにやられてしまうのだ」という陰謀論的な見立てが定番だ。

この本ではそういう見立てとほぼ同じことを第二次大戦の敗戦時に遡って、詳しく分析している。吉田茂の系統である保守本流の本質は対米追随であり、対米自立・中国重視の田中派系と常に争ってきた。つまり田中派系の政治家が検察やマスコミによって潰される慣行の背後にはアメリカの圧力があるのだという。著者は外務省国際情報局長という中枢にいた人なので、陰謀論で片付けられない重みがある。

戦後の政治史にあまり興味を持っていなかったのだが、この本は面白かった。日本の政治勢力は一貫して対米追随派と対米自立派に分かれていることが説明されている。自立派の政治家を狙う検察特捜部のルーツは、日本軍の隠匿物資を探してGHQ管理下に置くための組織だそうだ。つまりそもそもアメリカの出先機関みたいなものである。最近の陸山会事件の経緯などを見ていると、占領下に作られた日本の政治の構造的な弱点が、今現在もそのままになっていることがよく分かる。

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