「ぼくはエクセントリックじゃない グレン・グールド対話集」 ブルーノ・モンサンジョン編2007年07月20日

グールドが何を思ってああいう個性的な演奏をしているのかを知りたくて読んでみた。僕が理解したグールドの言い分は以下のとおりである。

多くの演奏家は作曲家が絶対的にエライと考えて、作曲家の考えたことをなるべく忠実に再現しようとしている。でもグールドは曲に対して作曲家も演奏家も聴き手も平等に創造的であるべきだと考えているようだ。つまりグールドは演奏することによって作曲に協力しているわけである。そういう考えの延長で、レコーディングする時は複数のテイクを組み合わせたりもする。テクノロジーが発達したら、編集前の複数テイクをそのまま世に出して聴き手が自由に編集するようになれば良い、テンポだって聴き手が好きなように変えれば良いという。

曲を評価するときの価値観も明快である。何よりも対位法を重視している。対位法というのは複数のメロディが同時に鳴っていることだが、グールドは同時に鳴っているメロディに注目するだけではなく、一度現れたメロディがその後どう展開するかもよく問題にしている。曲というのはメロディのパーツでできていて、同時に鳴っているメロディも時間的に離れているメロディもうまい具合に響き合っているのがよい曲である、ということのようだ。

グールドの考えはシンプルで分かりやすい。なるほどそういう観点でグールドの演奏を聴いてみると今までよりもっと楽しめる。ぼんやりと聴いていた音楽に耳のピントが合ったように感じる。

ピアノ演奏について語っている中に「ピアノ演奏の秘訣は、部分的には、この楽器からうまく離れる離れ方のうちにあるのです。・・・私は、自分がしていることに全身的に身を委ねながら、自分自身に距離を置く手段を見出さなければなりません。」とあった。この前僕が書いた「グールドは自分の意識を曲から一定の距離に保ち続けているような気がする」という感想は合っていた。

クラシック音楽全体についての見方もスッキリしていていろいろ勉強になった。モーツァルトやベートーヴェンみたいに一般に評価の高い作曲家のことも非常にクールに評していて面白い。他にも、コンサートは好きじゃないとか、ピアノの練習はしないとか、興味深い話がいっぱい出てくる。翻訳はちょっと直訳調で頼りない。

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コメント

_ ものぐさ ― 2007-07-21 00:06

私は、グールドの個性を形成している大きな源について、歌い手だった母親から学ぶ形でピアノを弾く力を習得したことと、彼の人間関係下手によってピアノと対話する習慣が身についていることからきていると思っています。(勿論、対位法を重視する傾向は、グールド自身が選択したことのようです)
 芸事を学校などで学ぼうとすると、どうしても内容が一般化、均質化しやすく、没個性になる傾向が避けられませんが、言葉を覚えるより先に、ある特定の優秀な指導者(親である場合がほとんど)に恵まれ、個人指導を得た場合に、個性がスクスク伸ばされることが可能になる事例が多くあるように思います。
 そうした環境は、正直なところ、ちょっとうらやましいです。しかし個性的だけに、社会に認めてもらうまでの戦いは、より過酷になるのは避けられないとは思いますけれども。

_ ぶんよう ― 2007-07-21 13:24

グールドは字が読める前に楽譜が読めたそうですね。芸術家や運動選手などの場合、物心がつく前からやっているかどうかはかなり大きいですね。ものぐささんのおっしゃるとおり、グールドの場合はそれが現実逃避傾向とうまく合ったようです。

でも、親が子どもにあるジャンルを押し付けることが本当に良いことかどうかはすごく難しい問題だと思います。イチローは「虐待みたいなものだった」と言ったことがあるし、村上春樹も子どもの頃に日本の古典文学を勉強させられてものすごく嫌だったと言っています。二人ともその分野で成功はしましたが、親とうまくいっていません。何の犠牲もなく高いところに到達するのはムリということでしょうか。

_ ものぐさ ― 2007-07-22 00:05

 そうですね。理想を押し付けられて何とか順応し、さらに発展できる子供は、ほんのわずかかもしれません。
 特に男親の押し付けは難しい気がします。グールドの場合も、母の愛情と、(子供にとって押し付けに感じられない)指導がセットだったことが重要だったように思います。

_ ぶんよう ― 2007-07-23 13:58

なるほど、母親が良かったのか。グールドは一人っ子で甘やかされて幸福だったと言ってますね。タイガー・ウッズなんかはお父さんに教えられてもうまくいったようですが。

僕も父親として日々悩んでおりますが、伝えるべきものもあまりないので放っていたら、子どもはゲームばっかりするので困ったものです。

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