「お金」崩壊 青木秀和 (集英社新書)2008年06月03日

お金というものがナニで、お金はこれからどうなるのかという問題は非常に重要だ。近いうちにお金システムは激変せざるをえないような気がする。というか、既に激変進行中ではないのか。原油暴騰なんかはその一段階としか思えない。

この本は日本と世界のお金の歴史と現状について、問題点を鋭く指摘していて勉強になった。例えば、財政投融資の財源である郵貯・簡保・年金はそれぞれ明治維新、第一次大戦、太平洋戦争という戦乱の時期に費用調達のために創設されたものだったのだ。どれも「将来への備え」という体裁を取りながら、実態はそういうものではなかったわけだ。現在、国の借金が何百兆円もあって大変なことになっているが、それは明治政府が江戸幕府から債務を引き継いだところからずーっと続いている問題であるらしい。

結局このままでは日本も世界経済もどうにもならないという話になり、エネルギーや環境問題も把握した経済システムにしないとけないという。それには賛成だが、具体的な話が全く無かったのは残念。

泡盛 その22008年06月04日

泡盛というのは米(タイ米)の酒だから味も清酒を思わせるところがあって、普通の泡盛は純米酒に似ているし、古酒は吟醸酒の香りがする。でも清酒が薄味の和食以外に合いにくいのに対して、泡盛だったら中華でもパスタでも何とかなる。考えてみれば沖縄料理は和洋中の折衷だから、何にでも合う泡盛がピッタリなのだ。

八重泉: たぶん石垣島で一番ポピュラーな銘柄。あちこちに看板やポスターが貼ってあった。生活感のある味わい。甘みがあって味が濃い。こーれーぐーすに注ぎ足すならこれでしょう。

マイルド瑞穂 古酒: 名前のとおりとてもマイルド。クセの無い万人向けの味。古酒らしいフルーティな香りもあって洗練された感じがする。八重泉とは対極である。泡盛入門に良さそうだ。そこが物足りなかったのだが、夕食が「鮎の塩焼きとお吸い物」のときに飲んでみるとピッタリだった。

「生きるための経済学」 安冨歩 (NHKブックス)2008年06月10日

これは非常に面白い本だった。21世紀に僕が読んだ本の中で一番の知的興奮を覚えた。著者は現代の自由主義経済社会を支える経済学を引っくり返そうとしていて、それは見事に成功していると思う。

自由主義経済の根底には「選択の自由」という価値観があるが、実はそこに問題がある。選択の自由は本当の自由ではない。そのあたりはちょっと哲学的になる。僕も昔いろいろ考えた。自由とは自らの生命力に基づく自発性に従うことである。そのとおり!

この議論はポランニーの暗黙知から創発という概念に繋がっていき、コミュニケーション論になってハラスメントという問題が出てくる。著者は客観的に議論を進めるだけではなく、自分の仕事や家庭生活におけるハラスメントの問題を語る。岸田秀先生の唯幻論みたいに、身を削って生み出された理論であることがわかる。

この人はかなり期待できると思ったので、他の本も読んでみた。「ハラスメントは連鎖する」(光文社新書)、「複雑さを生きる」。どれもすべて通底する話で面白かった。

通り魔事件2008年06月12日

通り魔事件の被害者の人たちは本当に気の毒だ。秋葉原には行ったことはないが、別の場所で自分が通り魔に合う可能性だってあると思う。いったいこの事件をどう捉えればいいのだろう。

僕が気になるのは自動車のことである。犯人は最初トラックで人をはねて、次にナイフで人を刺した。ナイフの販売を規制しようという話が出ていて、僕も両刃のナイフなんか気軽に市販するべきではないと思うが、もう一つの凶器であるトラックを規制するべきであると言う人はいない。

犯人は故意に人をはねたが、不注意な運転者のクルマにはねられて亡くなる人は毎日何十人もいるだろう。通り魔は怖いが、確率からいえば交通事故に合う可能性の方がずっと高い。僕は通り魔のクルマに故意に轢かれるのも、悪意の無い人の運転ミスで轢かれるのも同じくらい怖い。

家電製品なんかは間違った使い方でも人が怪我をしたり死んだりしたらものすごく問題になってメーカーの責任が追及されるが、クルマの事故についてはそうならない。クルマの安全性についてももっと問題にするべきではないかと思う。例えば、クルマの前方数十メートル以内に人や物があるとスピードが出せないようにすれば良い。技術的には今すぐできそうな気がする。

もともとクルマ好きで整備士になろうとしたこともあった犯人は、派遣社員としてクルマを作る仕事をしていて、その待遇への不満も犯行のきっかけだったようだ。もしかすると、クルマを共犯にするという意図もあったのかも知れない。

「ビヨンド スタンダード」 上原ひろみ2008年06月13日

ジャズのスタンダード曲の他、ドビュッシー「月の光」、「上を向いて歩こう」、ジェフ・ベックなんかをカバーしていて面白い。スタンダード曲なのである意味ポップなアレンジになっていて、今までの自作曲のアルバムより聴きやすい。特にファンクな感じの「上を向いて歩こう」が気に入った。「SUKIYAKI」じゃなくてちゃんと「UE WO MUITE ARUKO」と表示しているところも良い。

このバンドはアンサンブルが非常に良い。各自上手いのだがチームプレイに徹しているようで、フレーズも音色もバランスが取れているし、リズムもバンド全体としてうねるようなグルーブがある。録音も良い。クリアな音で活き活きと立体的に聴こえる。これは名盤でしょう。

テレビ2008年06月18日

ウチのテレビは17年前に買ったヤツである。数年前から画面が暗くなってきたので画質調整で「黒レベル」というのを上げていくうちに、とうとう最大になってしまった。それで全体の明るさは何とかなるのだが、画面の白い部分があると右側にオレンジ色が滲む。「明るさ」とか「コントラスト」とかいろいろ変えてみても直らない。

2011年までは今のテレビを使い続けるつもりだったが、ちょうとテレビを安く買える機会があったので、液晶テレビに買い換えることにした。スポーツを見ることが多いので、液晶の残像が少ない機種を選んだ。

配達に来た人が配線とチャンネルの設定もしてくれた。前日にテレビの裏側に繋がっているコードに「DVDより」とか書いたテープを貼っておいたら、配達の人が感心していた。半年前に僕が共同アンテナのデジタル対応工事に苦労したおかげで、地デジもきれいに映る。

さっそく「サッカー日本対タイ」の録画を見てみると、カメラがパンするたびに芝生がボケるではないか。これはブラウン管より激しく劣る。有機ELテレビが主流になるまで待てなかったのがくやしい。でも地デジでハイビジョン製作の阪神の試合を見たら、画面がきれいだしアナログより広い範囲が映っていて臨場感がすごい。野球ではあまりカメラをパンしないから残像も問題なし。うーん、地デジにも確かにいいところはある。でもアナログ停波には反対だ。

「細雪」 谷崎潤一郎 (中公文庫)2008年06月23日

「細雪」は村上春樹の「風の歌を聴け」と並んで阪神間を舞台とする二大小説である。「風の歌を聴け」は同時代の話なので惹きつけられて読んだが、「細雪」の方は昭和10年代などという大昔の小説だから古臭いだけだろうと決めつけて興味も持たずにいた。ところが、なぜか突然読みたくなったので読んでみた。

船場の旧家というから、もっとこてこてのナニワ商人が出てくる話かと思っていたが、ちょっと違った。美人四姉妹の下二人の縁談がどうなるかという話で、それだけで延々文庫本九百頁に渡って彼女らの日常生活の描写が続くのだが、これが予想外に面白い。

特に面白いのは、何か問題が起きたときの登場人物のコミュニケーションの様子である。誰に何をどう伝え、何を黙っておくのか。さらに、どういうタイミングでどういう手段で伝えるのか。そのあたりを考え込む描写が非常に優れている。

この時代の風俗も読んでいて楽しい。この人たちは主に和服を着て生活しており、舞を舞ったり三味線を弾いたり日本文化が身に付いている一方で、髪にはパーマをかけピアノやフランス語を習ったりもする。和食も洋食も中華も食べ、日本酒も飲むしワインやドイツビールを飲んだりもする。歌舞伎も見るし外国映画も見る。ハイカラである。

最近、省エネの観点で生活レベルを昭和30年代に戻そうという話があるが、この本を読むと電話もカメラもタクシーも既にある昭和10年代でもOKではないかという気がしてくる。ただ、医療は貧弱であったことがかなり印象に残る。

ところで芦屋に谷崎潤一郎記念館というのがあるので芦屋の人かと思っていたのだが、三十を過ぎてから東京から関西に移り住んだのか。それでこんな流暢な関西弁を書くとはさすがに偉大だ。