日記1999年03月18日

気分が良くないので夕方早めに会社を退ける。僕はこの時期の気候が苦手だ。暖かかったり寒かったりするせいで体調が不安定になる。そういえば、高校の英語の教師に「マーチヘア(March hare)」というあだ名を付けられた。mad as a March hare で「さかりのついた3月のウサギのようにアタマがおかしい」という意味だ。全然「さかって」はいなかったのだが。

バス停でバスを待つ。目の前の道路の上を高速道路が通っている。こういう高架道路は柱の部分が折れることもあるし、柱と柱の間の部分が落ちて滑り台のようになってしまうこともある。阪神大震災の時に僕の実家の近くでそういう風になっていたのをこの眼で見た。オフロードバイクで見に行ったのだ。

バスを待っている間、クルマの排気ガスを吸い込んで余計に気分が悪くなる。ここは上が高架でふさがっていて背後も高い壁なので空気が淀んでいるのだ。特にトラックが通ると最悪である。僕は子供の頃からディーゼルエンジンの排気ガスが苦手だ。震災の時、オートバイで実家まで行く途中の道路は渋滞の極致で、エンジンをかけたまま止まっているトラックとトラックの隙間をエンエンと通り抜けて行ったのだが、排気ガスがモクモクと煙っていてほんとに地獄だった。

バス停の横には樹が立っている。見上げると緑の葉っぱをたくさんつけている。こんなところにずって立っててよくそんなに青々としてられるな。僕は一刻も早くここから逃げ出したいよ。僕は調子が悪くなるとなぜか植物に親近観を持つということに気付く。ポケットから「カラマーゾフの兄弟」を取り出して読んでいるうちにバスが来る。救助隊だ。しかし、この救助隊も排気ガスを出している。

バスの中で本の続きを読む。バスは電車に比べて加減速が急なので本を読むと気分が悪くなるが、長年の研鑽によりバスの中でも本が読めるようになった。バスの中で本を読むコツは、なるべく本を垂直に立てることと、気分が悪くなりかけたらすぐやめることである。やめて、長い信号待ちなんかがあるとまた読む。発車しそうになるとまたやめる。今日は特に気分が悪いのですぐ本を読むのをやめてぼおっとする。ふと、大学で研究室を選ぶ時にディーゼルエンジンの研究室で排気ガスの改善をしてやろうとか一瞬だけ考えたのを思いだす。しかし、その研究室は実験が大変らしいと聞いてやめたのだった。

なぜかいろんなことを思いだしてしまった。井上陽水奥田民生「侘び助」によると「振り返りを始めたら、まだ僕らの心は3月」だという。「侘び助」も「半拍遅れ」だ。バスを降りると、そこには高架道路はなくて夕方の空が見えた。バスは排気ガスを残して去っていくが、空気は淀んでいない。バス停のそばのコンビニにうちの車が止まっていて、奥さんと子供たちがいた。息子が「パパ、なんでこんなとこにおるんじゃー」と言って笑い、僕は「バスで帰って来たんじゃー」と答えた。

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