「ワルツを踊れ」 くるり2007年07月07日

くるりの音楽はいつも完成度は高い。面白いことや実験的なこともやるが、肩の力が抜けていて耳になじむ。逆にいうと、あまりインパクトは強くない。地味だ。これでいいのだ的な意志は感じるのだが、内向的というかやや自己充足的世界に聴こえた。派手じゃなくてもいいから、もう一味何か訴えるものがあってもいいのではないかと思われた。

今度のアルバムはウィーンで録音したとのことで、音が良い。さすがは音楽の都である。音が良いせいで、曲もやや派手になったような気がする。味は良いのだけど食器や内装にあまり気を使っていなかったレストランが改装して雰囲気が良くなった、という感じ。

今までよりポップな感じの曲が多くなってなかなか良い。ちょっとサービス精神が出てきたのではないか。メンバーが2人になってしまったことと関係しているのかな。京都弁のラップみたいな曲も面白い。アレンジがポール・マッカートニーの「Live and Let Die」の後半に似ている。

「ロング・グッドバイ」 レイモンド・チャンドラー2007年07月09日

僕が愛読する村上春樹とロバート・B・パーカーがどちらもチャンドラーの影響を受けているというので、昔(20年くらい前)「長いお別れ」を読んだのだが、あまり面白くなかった記憶がある。たしか途中で挫折したような気がする。筋も全然覚えていない。新たに村上春樹訳が出たので読んでみたら、今回は面白かった。分厚い本だけど細部も面白いので苦にならない。

パーカーはチャンドラーの研究者なので、探偵フィリップ・マーロウはスペンサーの師匠みたいなものだが、スペンサーより感情的になりやすい。それは良いとして、フィリップ・マーロウはスペンサーに比べると存在感が薄い。ハードボイルド的名台詞はいろいろ吐くけど、それだけでキャラクターを成立させようとしているところにやや難があるような気がする。マーロウの一人称で書かれているが、存在感が薄いために三人称視点のように感じる。というか、三人称の客観的視点を主人公に固定したのがハードボイルドなのか。だから存在感が薄いのはわざとなのだ。

パーカーは主人公の身体感覚を重視することで存在感を出していて、村上春樹の(非リアリズム一人称小説の)主人公も同じである。そういう点ではパーカーと村上春樹はチャンドラーから同じ方向に一歩進んだのだという気がする。ミステリのパーカーはそこにとどまり、純文学の村上春樹はさらに三人称視点に戻るわけだが。

読み始めてすぐに、ある有名な小説に似ているように思えてきた。どう考えても話の骨格が似ている。読み終わると巻末に結構長い訳者あとがきが付いていて、村上春樹も全く同じことを言っていた。

「Golden Green」 UA2007年07月17日

前作の格好つけたジャズと違ってUA本来の世界に戻った感じ。やっぱりこういう肩の力が抜けたアレンジが似合う。この方が逆にカッコイイ。

UAの声はハスキーで立ち上がりが柔らかいが母音は力強い。母音が強いから、根源的というか有機的な感じがする。そのへんがUAの世界観ともぴったり合っている。だから歌詞を聴かなくても、声を聴いているだけで言いたいことが何となく伝わってくるわけである。こういう域に達している人はなかなかいない。

そういうわけで歌詞を聴くともなく聴いていると、「ランゲルハンス島」という言葉が耳に引っかかった。村上春樹の「ランゲルハンス島の午後」の引用かなと思ったが、インタビューによれば自分で見つけたらしい。でも何やら桃源郷的な場所のイメージで使っているところは村上春樹と全く同じで面白い。

iTunesのデータベースでジャンルがAlternative&Punkになっている。なるほど、菜食主義で農業をやっているUAは日本のオルタナティブだな。

「ぼくはエクセントリックじゃない グレン・グールド対話集」 ブルーノ・モンサンジョン編2007年07月20日

グールドが何を思ってああいう個性的な演奏をしているのかを知りたくて読んでみた。僕が理解したグールドの言い分は以下のとおりである。

多くの演奏家は作曲家が絶対的にエライと考えて、作曲家の考えたことをなるべく忠実に再現しようとしている。でもグールドは曲に対して作曲家も演奏家も聴き手も平等に創造的であるべきだと考えているようだ。つまりグールドは演奏することによって作曲に協力しているわけである。そういう考えの延長で、レコーディングする時は複数のテイクを組み合わせたりもする。テクノロジーが発達したら、編集前の複数テイクをそのまま世に出して聴き手が自由に編集するようになれば良い、テンポだって聴き手が好きなように変えれば良いという。

曲を評価するときの価値観も明快である。何よりも対位法を重視している。対位法というのは複数のメロディが同時に鳴っていることだが、グールドは同時に鳴っているメロディに注目するだけではなく、一度現れたメロディがその後どう展開するかもよく問題にしている。曲というのはメロディのパーツでできていて、同時に鳴っているメロディも時間的に離れているメロディもうまい具合に響き合っているのがよい曲である、ということのようだ。

グールドの考えはシンプルで分かりやすい。なるほどそういう観点でグールドの演奏を聴いてみると今までよりもっと楽しめる。ぼんやりと聴いていた音楽に耳のピントが合ったように感じる。

ピアノ演奏について語っている中に「ピアノ演奏の秘訣は、部分的には、この楽器からうまく離れる離れ方のうちにあるのです。・・・私は、自分がしていることに全身的に身を委ねながら、自分自身に距離を置く手段を見出さなければなりません。」とあった。この前僕が書いた「グールドは自分の意識を曲から一定の距離に保ち続けているような気がする」という感想は合っていた。

クラシック音楽全体についての見方もスッキリしていていろいろ勉強になった。モーツァルトやベートーヴェンみたいに一般に評価の高い作曲家のことも非常にクールに評していて面白い。他にも、コンサートは好きじゃないとか、ピアノの練習はしないとか、興味深い話がいっぱい出てくる。翻訳はちょっと直訳調で頼りない。

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参院選とその後2007年07月26日

僕は特に支持する政党もないので選挙の都度考えて投票するのだが、地方選挙でも国政選挙でも僕が入れた候補が当選する率はかなり低い。僕は苦戦している候補に入れる傾向があるのだ。例えば、A・B・Cの3人の候補のうち2人が当選する選挙で、僕が支持する候補Aが楽に当選しそうだったら、BとCを比べてマシな方に入れる。その方がAに入れるより1票を有効に使えるからである。

しかし、世の中の人々みんながこういう考え方になると、「Aを支持する人が多い場合はAに投票する人が少なくなる」というパラドックスが生じる。だから、世の中にこういう考え方が広まったとしたら、僕は素直にAに入れる。素直にAに入れる人が増えたら...、と考えるとだんだんワケが分からなくなってくるが、そういう先の読めない状況の方が面白いと思う。

今は参院選の結果も大体予測できているみたいで、与党が過半数割れということで話がまとまりつつあるが、じゃあその後はどうなるのか。

与党が過半数割れしたとすると、アベ政権がいくら衆議院で強行採決しても参議院で野党が抵抗したら法案が通らない。責任を取ってアベ首相退陣とかいうのは自民党内の問題であって、自民党総裁=総理が代わっても解決にならない。衆議院を解散したとしても、結果がどうなろうと参議院の状況は変わらない。

結局、自公政権は野党が納得して参議院を通してくれるような法案を作るしかなくなる。今までよりみんなでよく話し合うわけだから悪くないとは思うのだが、自民党はそんなまどろっこしい状態に耐えられない。そこで考えられるのは、憲法だか防衛だか何でもいいからとにかく野党間や民主党内で意見が決定的に分かれそうな法案を出すことである。

それでゴタゴタが起きたら、野党はワールドカップ・ドイツ大会の日本代表みたいに内部から崩壊する。野党が乗り切ったら自民党はかなり困ったことになるだろう。そのへんが今後の見所だと思う。

自分の考え方と各政党候補者の主張の一致度を試すボートマッチ。なかなか面白いです。

カレー2007年07月30日

暑い。僕の部屋は冷暖房設備が無いので、冬は寒く夏は暑い。寒いより暑い方が好きなのだが、この時期はさすがに暑すぎる。午後は西日がスダレとカーテンを貫き、座っているだけでも熱射病になりかける。椅子から立つと立ち眩みがしたりする。

こういう時はカレーを食べたい。それも日本式の濃厚なカレーではなくインド式のさっぱりしたやつ。この前「チューボーですよ」でやっていたカレーを作って失敗したのだが、もう一度挑戦してみることにした。サラダ油はエクストラバージン・オリーブオイルにして、茄子は揚げずにフライパンで焼き、メッティリーフというのは使わなかった。

前回の失敗その1は、最初に油に入れたホールのスパイスを引き上げなかったこと。スパイスの粒が残っていると食感が悪いし、噛むとキツイ味がする。スパイスの粒を引き上げなかったのは、番組中でも上記ウェブページの説明にもそういう手順が無かったからだが、もう一度良く読むと「油に香りを移す」と書いてある。香りを移すというのは、当然その後で引き上げることも意味するわけである。

失敗その2は、チリパウダーの量が多くて辛過ぎたこと。レシピよりだいぶ減らしたのだが、それでも多過ぎた。チリパウダーってメキシコ風味調味料のことか?とも思ったが、番組中で真っ赤な唐辛子粉を使っていたから違う。とにかくあのレシピは間違ってると思う。僕が使った「S&Bカイエンペッパー」が辛過ぎるのか。とにかくパラパラっと振る程度で充分だった。

そういう失敗のせいで、前回は味が滅茶苦茶で半分くらいしか食べられずに残したのだが、今回は美味しかった。ターメリックを入れ過ぎてちょっと苦くなってしまったが、まあ問題無い。ターメリックはウコンだから薬効もありそうだ。後味も非常にスッキリしていて、気分も良くなった。これは良い、また作ろう。