マンション建設 ― 2008年10月01日
近所にあった社員寮がマンションに建て変わることになった。我が家にはあまり関係無いと思っていたのだが、自治会として工事に関する協定を結ぶのだという。役員会に出て長老の話を聞くと、なるほどいろいろ問題がありそうだ。
まず今の建物を解体するときに埃が飛んでくる。工事の騒音もある。それから工事車両の問題。昔、町内の××マンションが建ったときには、子どもがダンプに轢かれて亡くなったとのこと。
建設会社と不動産会社と自治会役員で何回か会議をして協定書を作る。曰く、作業時間は何時から何時まで、土日は休み。埃対策はどうする、アスベストはこうする。関係車両は安全に気を付ける、周辺道路で待機しない。協定にない問題が生じた場合は協議のうえ誠実に対応するものとする。
会議には自治会役員の他、マンションの敷地に隣接する家の人たちも何人か出席している。騒音や埃の被害を一番受けるだけでなく、工事で敷地の境界付近を掘るので家が傾いたりしないか心配なのである。その件は別途、建設会社が各戸と直接話をすることになる。工事の前に家の隅々まで写真を撮って、工事後にヒビが入ったりしていないか確認するそうだ。
隣接住民の中に土木関係に詳しいおじさんがいて、いろいろと問題点を厳しく指摘する。自治会の会長はその人に住民代表になってもらって協定書に署名してもらおうとしたのだが、おじさんはお断りしますと言う。そんなものに署名して、後で誰かから文句を言われたらかなわないというのである。最近はモンスターなんとかというような人も多いから、とのこと。
会長が「わたしも署名するんでっせ」と説得し、隣接のお宅の人たちもお願いしますと言って頼むのだが、おじさんは断固拒否する。そして、「班長さんにお願いしたい」と言い出す。班長さんというのは我が家ともう一軒のお宅のことである。もう一軒のご主人も僕も別に構わないと言って引き受けた。
ある会議で、長老のひとりが不動産会社の担当者に向かって「あんたらは仕事やけど、我々は本来家で寛いでいる時間にこうやって出てきてるんや、それなりの配慮は無いのか。」などと言い出した。別の長老が「周辺対策費とかそういう予算があるやろ」と畳みかける。担当者は「おっしゃることは分かりますし、たしかに予算もありますが、今ここで出す出さないは申し上げられません」と答えたが、結局数週間後に○○万円が自治会に支払われた。
自治会の役員というのもメンドクサイものではあるが、いろんな意味で勉強になる。
機械要素技術展 ― 2008年10月05日
先週インテックス大阪にメカ関係の展示会を見に行った。機械要素技術展と設計製造ソリューション展。大阪南港には車でしか行ったことが無い。電車でどう行くのか調べたら、天下茶屋から500m歩いて岸里から四ツ橋線に乗ればいいのか。天下茶屋まで北上してまた住之江まで南下するのは遠回りだが他にルートは無いからしょうがない。
家を出て駅まで歩いたところで財布を忘れたことに気付く。カバンの中を探って非常用千円札を見つけるが、1000円で往復できるかどうか分からない。多分無理なので、家まで往復する。今後カバンには2000円入れておくことにしよう。
電車を乗り継いで四ツ橋線終点住之江公園からニュートラムに乗る。初めて乗った。モノレールみたいなものだけどレールは無い。タイヤで走っているらしく結構縦に揺れる。運転士はいない自動運転。神戸のポートライナーと同類のようだ。
海を渡って行くときに貯木場が見えるが、広い水面に材木はほとんど浮かんでいない。海面から突き出た杭の上に一羽ずつウミウが止まっている。北の方にIKEAの建物が見える。港湾地区の景色というのはちょっと寂しいけどせかせか動いているものが無くて気持ちが和む。
家からインテックスまで車なら30分だが、財布を忘れたせいもあって、1時間20分もかかった。受付に千人くらい並んでいる。地味なスーツの技術系サラリーマンに埋もれる。みんな招待券で入場するのだが、当日券5000円というのもある。5000円払う人なんているのか? 並んでいる人々の暇つぶしに女性ボーカルのバンドがスタンダード曲を演奏している。歌も楽器もそこそこ上手なのだが、ジャズ風アレンジがイマイチだ。結局30分待たされる。
4つの建物をグルグル歩き回る。板金加工会社と切削加工会社の人とそれぞれ少ししゃべる。CADソフト2種類、精密ねじ2種類、試作加工会社3社のパンフレットをもらう。パンフレットをくれというと必ず名刺をよこせと言われるが、すみません切らせてましてで通す。
きれいなコンパニオンはたくさんいたが、あまり面白い情報は見つけられなかった。昔はメカ関係の展示会というのは地味なもので、コンパニオンはあまりいなかった。不況で彼女たちの時給も下がったのかも知れない。1時間半くらいうろうろしたところで、ドリンク無料引換券で缶入りのお茶をもらって帰る。かなり疲れた。
金融危機 ― 2008年10月14日
ここ数十年の世界経済は、アメリカ人が世界中からお金を借りて使いまくることで成り立ってきた。そのアメリカ人がついに「お金を返せない」と言い出したので世界中がひっくり返っているわけである。
こういうことになるのは前から分かっていたのだ。僕は10年近く前にこんなことを書いた。何かピンボケな部分もあるが、とにかくアメリカのバブル崩壊は必然だと言っている。でも実際にそうなるのには10年もかかった。
「貿易赤字のアメリカが借金をどうやって返すのか」という反語的疑問の答えは今になって分かった。返さないのである。返さずに更に借金をし続けて、最後はバブル崩壊によってチャラにする。これから世界中で行われる「不良債権処理」というのは、突き詰めるとアメリカの借金を棒引きにする作業だろう。
だとするとこれから先、元の世界経済のあり方には戻れないことになる。元に戻るとは「また世界中がアメリカにお金を貸す」ということだが、アメリカは多重債務で自己破産した人みたいなものだから、当分はお金を借りられない。
日本はアメリカに工業製品を売ることができなくなるから、当面は大不況に陥ることは間違いない。大恐慌かもしれない。銀行が潰れて預金が引き出せなくなったりするんだろうか。物流も滞って食料が手に入り難くなったりしないか。僕は悲観的な人間なのでいろいろ心配してしまうが、どういう風に備えたらいいのかがイマイチよく分からない。地震や新型インフルエンザへの備えも兼ねて、食料のストックは増やした方がいいような気がする。
ともかく「いかにお金を使わずに楽しく生き延びられるか」という方向に進むしか無いと思う。そうすると生活がエコロジカルになるという利点もある。ついに観念世界のエコノミーと実体世界のエコロジーが一致するときが来たのかも知れない。
馬 ― 2008年10月22日
この前、義父がうちの娘を馬に乗せてやるというので運転手として付いて行った。義父が半世紀前に所属していた大学の馬術部の催し。馬場は大学の敷地の一番奥、農学部の農地の中にあった。のどかで気持ちのいいところ。
馬術部員たちがこんにちはと笑顔で迎えてくれる。部員はほとんどが女の子。さっそく厩舎を見せてもらう。例の草食動物の匂いがするのかと思ったら、想像と違ういい香りがする。床に敷いてあるオガ屑の匂い。
義父から馬への接し方を教わる。馬を驚かせないように、正面から声を掛けながら近づく。耳を後ろに倒しているのは怯えているしるし。昔は馬を手に入れるのに苦労して馬の気性も様々だったが、今は引退した競走馬をもらえるので、落ち着いた馬が多いとのこと。
顔を撫でてみる。滑らかな肌触り。5秒くらい撫でたら口で払われる。首を撫でていると、柵の下から顔を出して僕の足を軽く噛んだ。触られるのはあまり嬉しくないようだ。それでもじっとこちらを見ている。眼をよく見ると、虹彩は茶色、瞳の形は横長で色は少し白く濁った青。
前足で地面を掻くような仕草は食べ物を要求しているらしい。食べ物をやる時は、指でつまんでいると指ごと噛まれてしまうので、手のひらに乗せて与える。ニンジンをやるとコリコリをいい音を立てて食べた。隣の柵にいる馬が鉄の扉を歯で叩いてガンガン鳴らす。そちらにもニンジンをやる。別の馬が首を振っている。全ての馬に均等にニンジンをあげた。
娘が馬に乗せてもらう。乗馬帽を被ってプロテクターを着て、部員が3人ついて馬場をトコトコと何周も歩かせてくれる。娘はとても楽しかったらしく、一人で(手綱を引いてもらわずに)乗りたかったと無理なことを言う。乗り心地は健康器具の「ジョーバ」に似ているが、機械と違って馬は温いのだそうだ。
自動車の代わりに家で馬を飼うと楽しいかもしれない。でも、アスファルトの道路を歩くのは馬の脚に良くなさそうだ。ガソリン代より餌代の方が高そうな気もするし、バフンの処理も困る。田舎に移住して農業に転職しないと無理。
在宅血液検査 ― 2008年10月23日
会社を辞める前の年以来、健康診断というものを3年受けていない。別に受けなくてもいいのだ。血液検査なんか20年間悪い数値が出たことは無いし、バリウムを飲んで胃の透視をする検査は苦しいうえに放射線被爆量も多いから受けたくない。仕事仲間の友人が最近胃カメラの細いやつを鼻から飲んだと言っていたが、そんなのはバリウムよりイヤだ。
しかし、このところずっと胃が痛い。いつもなら良く効く漢方胃腸薬も効かない。そういえば生命保険のポイントを使って在宅検査というのができるのを思い出した。やってみよう。
電話で申し込んで代金を振り込む。通常9000円のところポイント使用により1500円。「デメカル」という検査キットが送られてくる。男性用ガン総合検査というもの。細かいパーツがいろいろ入っていて意外にややこしそうである。説明書を読んでみると、これはプリンタインクの詰め替え作業に似ている。
まずイソプロピルアルコールで消毒した指の腹に小さい針の付いた器具で穴を開ける。ブスッと突き刺すのかと思ったら、バネ仕掛けで針がパチンと飛び出してすぐに引っ込むようになっている。あまり痛くないと書いてあるが想像していたより痛い。掌から指の方にしごいて血を絞る。指先に溜まった血液が小豆大になったところで、シリンダの先についた5ミリくらいの綿に染み込ませる。
綿が真っ赤になるまでやれとのことだが、血が出なくなった。その場合は予備の針差し器を使ってもう一回指に穴を開けるのだ。もう一回やる。パチン、痛っ。また血を絞る。これで綿が真っ赤になった。シリンダに付いた棒を押して、液体の入った別のシリンダに綿を落とす。キャップをしてシリンダをよく振ると、液体が真っ赤になる。
ピストンを付けてギューッと押し込んでいくと、あら不思議、血漿が分離されて液体が透明に戻る。ここがこのシステムの肝なのだろう。キャップをして元のパックに戻して、返送用封筒に入れる。屋内のポストに出せと書いてある。なるほど屋外のポストだと高温になり過ぎる可能性があるのか。
返送して数日後、メールが来る。3種類の腫瘍マーカーがそれぞれ基準以内でした。まあ今のところ僕の身体の中であまり酷いことは起きていないようである。それから数日後に封書でも結果が通知された。これは健診を受けるよりラクで良い。でもポイント無しでやるとちょっと高い。ところで胃の不調は、気になっていた仕事が片付いた途端に治った。
「三四郎」 夏目漱石 (新潮文庫) ― 2008年10月27日
夏に「細雪」を読んだらアマゾンのおすすめ商品に昔の日本の小説が並ぶようになった。「細雪」で昔の話でも結構楽しめることが分かったので、今度は漱石を読んでみることにした。
田舎から出てきてまだ地に足が着いていない感じの東大生の呑気な生活。友人が若気の至りの芸術論をぶったりするのが楽しそうだ。この感じは庄司薫の「赤頭巾ちゃん」シリーズによく似ている。東大周辺の話だし、主人公が受身で友人に振り回されたり、大胆な女性が登場したり、考えてみればソックリである。庄司薫はサリンジャー+漱石だったのか。
明治41年の日本人は既に近代化・西洋化が半分完了していたのだなあ。洋服も和服も着て、ナイフとフォークでディナーを食べ、蕎麦屋で酒を飲む。物質的にはそういう風に半々で済ませればよいが、困るのが男女の関係である。自由恋愛と見合い結婚を折衷するわけにはいかない。特に頭の中だけ自由になって経済的に自立できない女性が困る。それは「細雪」でも描かれていた問題であった。
三四郎を翻弄するミネ子さんはそのへんの困った感じをストレイシープという謎かけで表現するわけだが、漱石は日本全体が近代化・西洋化によって困った状態にあると言っているのだと思う。それは今でも解決していないような気がする。
文章の調子が軽くてさすがにリズムが良い。ユーモアがあって面白かった。これで340円は安い。
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