「GAME」 パフューム ― 2008年05月18日
なんか面白そうなので聴いてみる。YMO以来のテクノのヒットというけど、今はこういうサウンドは普通のポップなのではなかろうか。でも生楽器のサンプリングじゃなくて古いシンセサイザーっぽい音ばかり使っているところがテクノか。たしかにYMOに似ている曲もある。
パフュームのアルバムという体裁だが、実質は作詞作曲から録音ミックスダウンまで一人でやっている中田ヤスタカという人の作品だ。3人の女の子たちはカワイイ声を出しているだけである。まあアイドルというのは元来そういうものだが、声の音程もヴォコーダーを通してキーボードでコントロールされているところがかなり徹底的だ。
スピーカーから音を出してBGMとして聴くと、ドンシャカ、ドンシャカと騒々しくてあまりよろしくない。ゲームセンターにいるような気がしてくる。あーなるほどタイトルは「GAME」だった。でもイヤホンで聴くと意外に退屈しない。コーラスがしっかりしている。それは機械で正確な音程を出しているからだ。
「HEART STATION」 宇多田ヒカル ― 2008年03月20日
これは宇多田ヒカルのアルバムの中で一番良い。今まではいつもポップな曲が何曲かあって、バラードがあって、他は個人的な趣味に走った地味な曲という印象があった。今回はほぼ全編ポップで、しかもオリジナルで創造的でもある。才能全開の傑作だ。
1曲目「Fight The Blues」で「くよくよしてちゃ敵が喜ぶ」というところは奥田民生が「OT9」の「カイモクブギー」で「あたりまえみたいな顔してろ、でないと今をのりきれないぞ」と言っているのに似ている。「期待されてプレッシャーすごい、それでもやるしかないんです」というのはイチローが「プレッシャーに正面から向き合うことにした」と言っているのに通じる。
宇多田ヒカルは何ヶ月か前にブログで、なんかポップに目覚めたというようなことを書いていた。奥田民生もやっと自分のサウンドを掴んだというし、イチローも正月のインタビュー番組で遂に最終的なバッティングフォームを手に入れたかも知れないと言っていた。
僕が共感して応援している人たちが、去年同時に開眼しちゃったようだ。これは不思議な偶然の一致、シンクロニシティというヤツである。何か時代の流れと関係しているような気がする。
「娯楽」 東京事変 ― 2008年03月03日
奥田民生が絶賛する東京事変。これはたしかに良い。バンドのアンサンブルが優れていて、退屈な曲が無い。もっとパンクかと思ったが、意外にファンクっぽいノリ。椎名林檎の歌い方はお酒でいうと芋焼酎みたいにちょっとクセがあるが、クセがある味ほど慣れればハマるものである。
ソロの時は詞も曲も自分で書いていたと思うのだが、このアルバムでは作曲は他のメンバーに任せている。YUKIと同じようなパターンだ。Jポップ業界の女性で作曲し続けて成功しているのは宇多田ヒカルくらいか。
ところで最近、「反社会学講座」の著者パオロ・マッツァリーノさんのサイトを発見して、バックナンバーを読んでいたら、2006年のよかったものに東京事変の「大人」を挙げていた。椎名林檎さんの歌からはジャズが聴こえるとのこと。これも聴いてみよう。
「PRISMIC」 YUKI ― 2007年12月23日
YUKIのアルバム「joy」と「WAVE」はいくら聴いても飽きないので、その前のソロ1作目も聴いてみることにした。「joy」と「WAVE」のように洗練されたポップアレンジではなくロック寄りで荒削りな感じがする。ソロになる前のJUDY AND MARYがパンク風だったから、ポップに移行する途中だともいえる。
「joy」と「WAVE」に比べると化粧気の少ないサウンドで音質もやや劣るが、その分やりたいことがストレートに伝わってくるような気がして、これはこれで好感が持てる。曲の作者を調べてみると、「joy」と「WAVE」では自作の曲は少ないが、このアルバムでは7曲を作曲している。その辺りもストレートな感じに繋がっているのかも知れない。
YUKIが作った曲だけを順番に聴いてみると、あまりポップじゃない、へヴィーだ。YUKIは自分でちょっと違うなと思ったのだろう。このアルバムでは曲ごとにいろいろな人にプロデュースを任せているが、「joy」と「WAVE」では自分がプロデューサーになるかわりに曲を作るのをほとんどやめた。その選択は正しくて、ものすごく成功したわけだ。
このアルバムで試行錯誤することによって、コンポーザーよりプロデューサーになるという方向を見出したのだろうな。そういうことを考えながら聴くと、より味わい深い。
「LOVE PiECE」 大塚愛 ― 2007年11月22日
ミュージシャンには、純粋な歌手から作詞作曲、演奏、編曲・プロデュースも自分でする人までいろいろな段階がある。大塚愛は一見ちゃちなアイドル歌手みたいな雰囲気もあるが、実はほとんど全部の仕事を自分でやっている。音楽を生み出す作業のうちどれくらいを自分でやっているかをクリエイター度と呼ぶことにすると、大塚愛はクリエイター度が高いのである。
クリエイター度が高いからクリエイティブかというとそうでもないが、ビートルズから40年経ってもあまり進化しないポップミュージックだからしょうがない。我々に食べ物が必要なのと同じようにこういう音楽も必要で、日々の献立がクリエイティブである必要がないのと同じで、ポップミュージックもいちいちクリエイティブである必要はない。曲はどれもポップで楽しい、よくできている。
「honeycreeper」 パフィー ― 2007年10月23日
アメリカで人気が出てから日本でも人気復活のパフィー。タイアップ曲が4曲入っている。前作同様、なんかパワフルである、味が濃い感じがする。歌が上手くなったからか、アメリカ市場を意識して力が入っているのか、昔より脱力感が減った。
最近は奥田民生の曲がアルバムに1曲しか入ってなくて残念だ。脱力感がパワーダウンしているのは、タミオの全面的なバックアップが無くなったからだろうか。しかしそのタミオ師匠の方も近頃はだらだら感があまりない。だんだん業界内の大御所的ポジションになってきたからか。
iTunesデータベースのジャンルは「Alternative&Punk」になっている。前作は「Rock」だった。もっと前のタミオプロデュース時代は「Pop」だった。パフィー周辺が入力しているとすれば、だんだんアーチスト志向になっているといえる。リスナーの誰かが入れているとしても、聴こえ方がそういう風に変わってきているわけだ。
パフィー本人たちがそういうサウンドが好きなのか、スタッフの考えなのか、また今後どういう方向に行くのかはわからないが、パフィーは曲を作っているわけじゃないので、RockとかAlternative&Punkと称しても結局「そういうサウンドに乗せたポップ」なんじゃないかと思う。Popでいいやん。
「Thinking Out Loud」 BONNIE PINK ― 2007年08月09日
ボニーピンクは昔、髪の毛を真っ赤に染めていて、歌い方もちょっと突っ張った感じだった。最近は普通のOLみたいな外見になって映画やCMにも出るし、イメージがすごく変わった。
前作「Golden Tears」はえらくポップで、歌い方もリラックスしていて、上出来だとは思ったのだけど、以前とあまりにも違うので何となく地に足が着いていないような印象もあった。前の方が良かったというわけではないのだが、変化が大きすぎてちょっと腑に落ちなかった。
今回も前作同様にポップな曲が多いが、本人が「明るい私も暗い私も全部入っている」と言っているとおり、昔のような内向した感じの曲もあってバランスが取れている。前回は明るく作り過ぎたので、ちょっと戻してみましたという感じか。それがうまくいっていると思う。
この人はギターもキーボードも弾くが、どちらも独学でコードの押さえ方なんかも我流だそうだ。勉強すると型にはまってしまうと考えているらしい。曲を作るときは詞と曲を同時に一行ずつ作るそうで、これはすごく珍しいのではないか。自分の感覚だけを頼りに試行錯誤を続ける人のようだ。
「Golden Green」 UA ― 2007年07月17日
前作の格好つけたジャズと違ってUA本来の世界に戻った感じ。やっぱりこういう肩の力が抜けたアレンジが似合う。この方が逆にカッコイイ。
UAの声はハスキーで立ち上がりが柔らかいが母音は力強い。母音が強いから、根源的というか有機的な感じがする。そのへんがUAの世界観ともぴったり合っている。だから歌詞を聴かなくても、声を聴いているだけで言いたいことが何となく伝わってくるわけである。こういう域に達している人はなかなかいない。
そういうわけで歌詞を聴くともなく聴いていると、「ランゲルハンス島」という言葉が耳に引っかかった。村上春樹の「ランゲルハンス島の午後」の引用かなと思ったが、インタビューによれば自分で見つけたらしい。でも何やら桃源郷的な場所のイメージで使っているところは村上春樹と全く同じで面白い。
iTunesのデータベースでジャンルがAlternative&Punkになっている。なるほど、菜食主義で農業をやっているUAは日本のオルタナティブだな。
「ワルツを踊れ」 くるり ― 2007年07月07日
くるりの音楽はいつも完成度は高い。面白いことや実験的なこともやるが、肩の力が抜けていて耳になじむ。逆にいうと、あまりインパクトは強くない。地味だ。これでいいのだ的な意志は感じるのだが、内向的というかやや自己充足的世界に聴こえた。派手じゃなくてもいいから、もう一味何か訴えるものがあってもいいのではないかと思われた。
今度のアルバムはウィーンで録音したとのことで、音が良い。さすがは音楽の都である。音が良いせいで、曲もやや派手になったような気がする。味は良いのだけど食器や内装にあまり気を使っていなかったレストランが改装して雰囲気が良くなった、という感じ。
今までよりポップな感じの曲が多くなってなかなか良い。ちょっとサービス精神が出てきたのではないか。メンバーが2人になってしまったことと関係しているのかな。京都弁のラップみたいな曲も面白い。アレンジがポール・マッカートニーの「Live and Let Die」の後半に似ている。
「デニム」 竹内まりや ― 2007年05月29日
タツローの作品だと思って竹内まりやのアルバムを買う。実際、タツローの曲にそっくりの曲がたくさんある。タツロー本人がアレンジしてコーラスも付けているのだからしょうがないが、他人だったらパクリと言えるくらい似過ぎている。山下家の家庭内手工業的音楽である。
僕はタツローのアルバムは全部フォローしているのだが、デジタル化してからの音はいつまでたっても好きになれない。音の分離が良すぎて楽器と楽器の隙間が真空みたいに感じられる。
歌詞はいわゆるスローライフ系コンセプトの曲と得意のテレビドラマ風恋愛ソングが半々といったところで、聴いていると何となく女性雑誌を読んでいるような気がしてくる。でも「50になるのも悪くない」と歌っている「人生の扉」はなかなか良かった。
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