「Scratch」 木村カエラ2007年02月10日

これはGOOD。前の2作よりサウンドの完成度が高くて楽しく聴ける。なんか雰囲気がYUKIの世界に似てきたような気がする。前作「Circle」の感想で僕が言ったとおりになりつつあるのではないか。

QUEENの真似をしている「SWINGING LONDON」という曲がなかなかよくできていて面白い。やっぱり一人多重コーラスをうまくやるのがポップの鍵だ。この曲の作曲者はYUKIの曲の半分くらいを書いている蔦谷好位置である。他の曲も調べてみると、Jez Ashurstというイギリスのミュージシャンが2曲書いていて、この人もYUKIの「joy」に1曲提供している。なるほど、スタッフ人脈からしてYUKIに近づいているわけである。

あと、このアルバムは音が良い。洋楽みたいである。日本で録音しているが、レコーディングエンジニアが外国の人のようだ。録音したスタジオは前作とだいたい同じのようだが、同じ機材でもエンジニアによって違うんだなあ。

例によってDVD付きでプロモーションビデオ3曲とライブ7曲が入っているのだが、ライブパフォーマーとしてのカエラちゃんはまだちょっと年季が足りない気がする。

「IT'S A NEW DAY」 矢井田瞳2006年12月12日

ヤイコの曲はポップだし歌い方にもインパクトがあるのでよくCMに使われるが、CMで流れる部分以外は結構変わったメロディやコード進行が出てくる。最初のうちはその独特の節回しやコードについていけず違和感があるのだけど、何度か聴いているとだんだん耳に馴染んでくる。つまり「ポップ」→「ちょっとヘン」→「自然」という風に印象が変わるのである。パッと聞いて分かりやすいだけの音楽より重層的で飽きないから値打ちがある。

歌詞は言葉遊びがいろいろあって面白い。「キッチン」という曲で「ジャガイモ」と「じゃないの」、「ブロッコリー」と「ばっかり」で韻を踏んでいるのが気に入った。歌詞に自分の名前を埋め込んだ曲もある。

「STARTLiNE」という曲に「後悔もジェラシーも」という歌詞があって、前に聞いたような気がするので「CANDLIZE」(2001年)の歌詞を調べてみると「Look Back Again」に「後悔も罪も過去も」とあった。「STARTLiNE」は未来に向かい「Look Back Again」は過去に向かっているが、どちらも時間軸を意識した歌である。岸田秀先生いわく「悔恨が時間を生む」というわけで、ヤイコはいろいろ過去を省みつつ未来に向かう姿勢で歌っているのである。

そう思って歌詞を眺めてみると、ほとんどの曲に「未来」「いつか」「昨日」といった時間を表す言葉が使われている。YUKIの「WAVE」の歌詞に「空」関係の(つまり空間的な)言葉が多用されているのとは好対照だ。

「WAVE」 YUKI2006年09月21日

前作「joy」と同様にカラフルで楽しいアルバム。ポップな曲ばかりで、しかも曲ごとに個性があって飽きない。YUKIという人はそれぞれの曲のイメージをハッキリと持っていて、歌詞と声とサウンドを組み合わせてそれを表現することに成功しているのだと思う。今のJポップ業界では誰もついて行けてないんじゃないか。

YUKIの歌詞は言葉が自由過ぎて、何を言わんとしてるのか僕にはよくわからないのだが、なんかくっきりとしたイメージは伝わってくる。YUKIのサイトに本人による解説があったので読んでみると、言葉で何かを伝えようとしているのではなく、自分の中のイメージを言葉で断片的に表現しているだけのようだ。

「あおぞら」という曲は漫画「浮浪雲」に近いと言っているのを読んで、なるほどと思った。他の曲(「夏のヒーロー」)の歌詞にも「はぐれぐも」という言葉が出てくるのだ。「入道雲」や「うろこ雲」のような普通の言葉として使われているが、「はぐれぐも」というのは一般名詞じゃなくてジョージ秋山の造語だ。国語辞典には載ってない。そういえば、メランコリニスタって何?イタリア語?と思っていたが、YUKIの造語だったのか。

「はぐれぐも」が出てくるのはどの曲だったっけと歌詞カードを読んでいて気づいたのだが、ほとんどの曲に空、雲、雨、太陽、星、月といった空関係の言葉が使われている。YUKIの曲ののびのびとしたイメージはそのへんにも現れている。いいね!

「PARADE」 スガ シカオ2006年09月13日

去年の夏、3週間のロングバケーションをとったのだが、ほとんど家にいてTVやラジオで高校野球を見たり聞いたりしていた。その時に朝日放送がテーマソングにしていたのがこのアルバムの1曲目「奇跡」で(近畿地方以外の方はご存知ないかもしれないが、当地では民放でも全試合を放送している)、「いっまー、きせーきがー」というフレーズが耳にこびりついた。今年はスキマスイッチの曲だったが、どことなく去年のスガシカオに似ていたような気がする。

高校野球中継の時に流れていたのは「奇跡」のサビだけで爽やかな印象だったが、曲全体を聴いたら高校野球のイメージとはかけはなれた屈折した歌だった。二面性があって面白い曲だ。

このアルバムは他にもポップな曲が多くてわりと名作。前作「TIME」のプリンスっぽい密室的な雰囲気とはちょっと違う。演奏者をチェックしてみると、「TIME」では10曲中4曲しかドラムが使われていなくて打ち込みのリズム主体だったのに対して、今回はほとんどの曲にドラムが入っている。良いことである。

村上春樹がスガシカオの歌詞をほめているが、僕はあまり好きではない。メロディーに対する歌詞の載せ方も常に字余り気味で無理がある。でも音楽としてはよくできてるし、こういうファンク系のサウンドで頑張っている人は最近少ないのでがんばってもらいたい。

アマゾンで「初回限定DVD付き盤」を安売りしていて普通のと60円しか違わなかったのでDVD付きを買った。4曲のプロモーション映像が入っていたが、僕はライブ以外の音楽ヴィデオにほとんど興味が持てない。「奇跡」だけはライブ風映像だったけど、音はCDのままだし。60円だったからぎりぎり許すけど、100円だったらちょっと腹が立つ。定価だと500円くらい取るから絶対に買わない。

「cure jazz」 UA × 菊地成孔2006年09月04日

菊地成孔というジャズミュージシャンの曲とジャズのスタンダードが半々。菊地がUAに自分のアルバムで何曲か歌ってくれないかと打診したら、やるならアルバム全曲一緒にやりたいという返事でこうなったそうな。

UAはボ・ガンボスの曲を歌っても童謡を歌ってもUAの世界になってしまって凄いのだが、このジャズアルバムはもうひとつだった。全体に都会的でお洒落な雰囲気を出そうとしているところがいけないんじゃないか。UAのオリジナリティは動物的というか土着的なパワーを洗練したような表現にあるのであって、都会的洗練を目指したらそっちにはもっと上がいっぱいいるだろうという気がする。このアルバムの中でもクールな曲じゃなくてアフロな感じのリズムの曲では良さが出てると思う。

「Splurge」 PUFFY2006年07月20日

パフィーは奥田民生の手を離れてから中途半端なアルバムばかり出すのであまり興味が無くなっていた。アメリカでスターになってレコード会社のやる気が出たのか久々にまともなアルバムを出したので買ってみると、これはイイ、オモロイ!

10人くらいが作曲していて、そのうち半分はアメリカのミュージシャンで、しかも作曲者がそれぞれ自分の曲をプロデュースしている。雰囲気がバラバラになりそうなところだが、ものすごく統一感があるのが不思議だ。パフィーという仮想キャラのイメージが(アメリカのアニメのおかげもあって)しっかり共有されているからだと思う。

日本から参加しているのは草野マサムネ、ギターウルフ、奥田民生、甲本ヒロト、斉藤和義、横山健(この人は知らない、横山剣とは別人らしい)。なんか重心が低い感じの人ばかりである。パフィーの軽さとバランスが取れていいのかもしれない。僕はやっぱりタミオワールド全開の「モグラライク」が一番好きだが、他も充実していて中身が濃いアルバムといえる。

うちはスカパーでカートゥーンネットワークを契約してるので、アニメ「ハイ!ハイ! パフィー アミユミ」を見たことがある。本物のパフィーには似ていない2人組のミュージシャンの女の子たちがドタバタをやる他愛のない子ども向けアニメだ。アニメの前後に本人たちも登場して日本語で1、2分しゃべるのだが(多分アメリカでは字幕が出るのだろう)、いつもの調子でダラダラしているだけである。何でそんなに人気が出たのだろうか。

「ULTRA BLUE」 宇多田ヒカル2006年06月28日

宇多田ヒカルは優れたクリエイターだと思うのでアルバムが出たら必ず買うのだが、いつもあまり長期間聴きこむ気にはならない。それがなぜなのか考えると、やっぱり「打ち込み」であることが大きいと思う。僕にとってバンドサウンドの音楽が「食べ物」だとすると、打ち込みの音楽は「蝋でできた食品サンプル」のような感じがするのだ。食品サンプル的音楽としては良くできているので感心はするが、噛めば噛むほど味が出るようなタイプの音楽ではない。

宇多田ヒカルはシンガー&ソングライターだが、今まではプロデュース、アレンジ、プログラミングといった音作りの仕事は全て周りの大人に任せていた。このアルバムが今までと違うのは、全ての曲を自分で編曲し、キーボード演奏やプログラミングまで自分でもやっているところだ。

曲はオリジナリティとポップセンスを兼ね備えていて凄い。そういう才能は稀有である。詞の世界も「日常的でありながら詩的」という正しい姿勢を保っている。ただ、全般的に詞もサウンドも観念的でメランコリックな印象が強い。観念的というのはつまり身体感覚よりも頭で考えた価値が優先することである。それは世の中全体がそうなんだから時代の要請なのだろう。そういう世界を表現するには食品サンプル的打ち込みポップが合っている。

村上春樹や奥田民生の作品なんかだと、観念的な世界を受け止めながらその向こうに突き抜けようという意志が感じられるが、宇多田ヒカルはまだ若いので出口を探してもがいているような気がする。でも「Keep Tryin'」はちょっと突き抜けかけている名曲だ。他にもいい曲は多い。宇多田ヒカルの過去4枚のアルバムの中では一番曲の粒が揃っている。

「はじめてのやのあきこ」矢野顕子2006年04月09日

ピアノ弾き語りで自分の曲をマッキー、小田和正、YUKI、陽水、キヨシローとそれぞれ一緒に歌っている。矢野顕子の歌い方はクセがあるので素直に歌うマッキーと小田和正はうまくなじんでいないようだが、もともとアクの強い陽水とキヨシローは余裕で合わせている。YUKIは矢野顕子になりきろうとしている感じだ。

面白いのは上原ひろみが出てくること。さすがに歌わないが、やっぱり類が友を呼んだ。一緒に弾いているところでは上原ひろみのパワーに矢野顕子が付いていけてない。そういえばこの前、スカパーで矢野顕子のライブを見ていたら「上原ひろみさんとレコーディングをして、ピアノ演奏の指導をされた」と話していた。

このタイトルはどういう意味だろうか。矢野顕子が他の人と共演するのは初めてじゃないし。「共演している人たちのファンにとって初めて」の矢野顕子っていうことか。つまり新しいファンの開拓を目指しているのかな。それなら相手の曲も歌って12曲入りくらいにすれば良かったのに。

それにしても、7曲しか入っていないのに2600円は高すぎる。うちの奥さんが欲しいと言うので、アマゾンの「5000円分購入で500円引きセール」の時に木村カエラの新譜と一緒に買ったのだが、今iTunes Music Storeを見てみたら1200円で売ってるやん! それくらいが妥当。奥さんは気に入っているみたいだが。

「キラーストリート」サザンオールスターズ2006年03月21日

僕はサザンはわりと好きなのだが、なぜかアルバムを買う気にはあまりならず1990年に出た「Southern All Stars」と「稲村ジェーン」という内容のダブッた2枚だけしか持っていなかった。このキラーストリート2枚組み4200円も買わないつもりだったが、アマゾンで初回限定DVD付きバージョン在庫放出セールというのをやっていて、2700円は安いと思ったので買った。

クワタの曲は昔から一貫して60年代ロック・ポップの引用が多い。このアルバムでも日本のグループサウンズみたいなチープなアレンジがあり、ビーチボーイズやフィル・スペクターを拝借した曲もあれば、ビートルズもある。そうやって同じところをグルグル回っている。それであまりCDが欲しくならないのだ。

奥田民生もものすごく引用が多いが、タミオは同じところを回っているんじゃなくてだんだん深く掘り進んでいるような気がする。新譜が出るたびに新しい局面が見られて面白い。そこが全然違う。

クワタは売れ線のポップな曲を作らせたら日本一である。キラーストリートの中にもそういう曲が一杯入っている。聴いていて楽しいことは楽しい。タミオはそういう曲を敢えて書かない。それは自分の表現の幅を狭めることになるからだという。クワタはそういう曲を書く立場を引き受けているから同じところをグルグル回ることになる。それはそれで偉いとは思う。

「Circle」木村カエラ2006年03月18日

デビュー盤「KAELA」と同様にへヴィめのバンドサウンドのガールポップである。ガールポップなのにパンクっぽいところはJudy&Maryにヒジョーに近い。声質はだいぶ違うが、自分で歌詞を書くところもYUKIと同じだ。YUKIはジュディマリの時よりソロになってからの方がコンセプトが明快で良いと思う。KAELAちゃんもいずれはそうなるような気がするが、今はいろいろ試行錯誤の時期なのだろう。やっぱり若いうちはバンドを経験しておくのがミュージシャンの王道だ。