「Goin' Home」 アート・ペッパー ― 2009年08月22日
1曲目の「Going' Home」はドヴォルザークの「家路」で、あの有名なメロディーをクラリネットでゆったりと美しく吹いている。他にも何曲かクラリネットを吹いている。アート・ペッパーの遺作だと思うせいか、全体にしんみりとした雰囲気が漂うように聴こえる。ジョージ・ケイブルズというピアニストと2人で静かに演奏している。僕が好きなジャズ・アルバムの共通点は、少人数で静かに演奏しているということのようだ。
「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」 マイルス・デイヴィス ― 2009年08月19日
アート・ペッパー「モダン・アート」に続いて、僕が好きなジャズのアルバムその2。20枚くらい持っているマイルスのCDの中で一番好きなのがこれ。静かな曲ばかりだが、カッコ良くて溜息が出そうになる。何回聴いても飽きない。
マイルスは音数少なく吹いていて「間」を聴かせようとしているようだ。バックのハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズも静かにシャープなリズムを刻んでいる。ハードボイルドな都会の雰囲気。'60年代のニューヨークが生んだ音楽なのだろう。
YouTubeにマイルスにインタビューするタモリの映像があった。タモリが昔やっていた「今夜は最高」という番組のビデオだ。見ているうちに放送時に見た記憶がかすかに蘇ってきた。マイルスの存在感はやっぱりすごい。タモリは「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」を愛聴していると言い、マイルスは「あれはとても良いアルバムだ」と答えている。
「モダン・アート」 アート・ペッパー ― 2009年08月08日
最近なぜか個人的にジャズ・ブームが再燃して、そういえばアート・ペッパーが良かったなと思い出して何年かぶりに聴いてみると、昔聴いたときよりもさらに気に入った。他のアルバムも聴き直して、持っていないアルバムを買い足すのが楽しみになってきた。
この人のアルト・サックスは音色が良い。サックス本体の金属管は余り鳴らさず、リードが鳴っている感じがする柔らかい音なので、速いフレーズを吹いてもうるさくない。サックスのリードは竹でできているのだと思っていたが、今調べてみたら葦だった。和名「暖竹」だから竹に近いのかもしれない。
このアルバムを聴いていると、感じの良いジャズ・バーにいるような気がしてくる。木製のカウンターと白熱灯の照明が思い浮かんで気分が和む。僕がそういうところにたまに行ったのは'80年代のことで、まだジャズは全然知らず、誰の曲が掛かっているのか判っていなかったが、今にして思えばこんな感じだった。BGMとしても良いし、真剣に聴いても飽きない。
録音は'56~'57年。'60年代のロックも'80年代のポップも今聴くと古いが、ジャズは古くならない。生楽器の音が良いからだろう。では、なぜジャズは廃れてしまったたのだろうか。音の雰囲気の可能性が開拓し尽くされたからだと思う。今、誰かがこういう雰囲気で演奏したとしても、古臭く感じるはずだ。ということは、純粋に音を聴いているのではなく、いつ演奏されたのかを意識したうえで聴いているわけだ。
ジャズ ― 2009年07月30日
最近、ポップやロックで聴きたいものが無くなってしまったので、ジャズを聴いている。特にエレクトリックになってすぐあたりのマイルス・デイヴィス(In A Silent Way、A Tribute To Jack Johnson、Bitches Brewなど)に興味が湧いてきた。電化マイルスは何か良く判らないから、あまり深入りしていなかったのだが、そのよく判らなさに惹き付けられる。
電化マイルスはアコースティック・マイルスに較べると、音の美しさが劣る。生楽器と違って、電気楽器の音は濁っている。音の美しさを犠牲にしてまでマイルスが電化したのはなぜか。「マイルス・デイヴィス自叙伝」によると、「ミュージシャンは、自分が生きている時代を反映する楽器を使わなきゃダメだ。自分の求めているサウンドを実現してくれるテクノロジーを活用しなきゃならない」とのことであるが、これは「ロックの方が売れているから、ロックに接近しよう」の言い換えに聞こえなくもない。
マイルスが電化してジャズとロックが融合してフュージョンが生まれた。僕の珍説ではロックとはエレキギター中心の音楽である。ジャズについては僕が言うまでもなく「即興演奏」をする音楽である。じゃあエレキギターを中心に即興演奏するフュージョンはジャズに含まれるのかというと、僕の中では含まれない。つまり僕の珍説には「ジャズはアコースティック楽器で即興演奏する音楽である」というのが加わる。
そこまで考えてふと気付いたのだが、ジャズの本質をちょっとひっくり返して「アコースティック楽器で譜面どおりに演奏する音楽」というのを考えると、これがクラシックになる。そういえば、譜面どおりに演奏するクラシック業界においてグレン・グールドはスピードや強弱を譜面どおりに弾かないので異端扱いされた。即興ではないかもしれないが、グールドはちょっとジャズ寄りなわけである。
マイルス・デイヴィスが即興演奏の可能性を開拓し尽くして、ジャズは終わった。ロックも同じところをグルグル回っている。今の時代を反映する楽器は何かな? コンピューター? マイルスはテレビCMで「例えば耳に埋め込んだコンピュータ・チップで演奏できるとか」って言ってたなあ。
「Kind of Blue (Legacy Edition)」 Miles Davis ― 2009年06月04日
目あてはDVDである。Kind of Blueを称える番組みたいなのは冗長。昔のスタジオライブは良い。アメリカのテレビでは50年前にこんなカッコイイものをやっていたんだなあと感心する。でもマイルズはこの頃も人種差別を受けていたのだ。
Kind of Blueは知的でクールでカッコ良くてどうみても傑作なのだが、「マイルス・デイヴィス自叙伝」を読むと、本人は失敗だったと言っている。子どもの頃に聞いたゴスペルのフィーリングを再現しようとしたのに、まるで違うものになってしまったから、ビューティフルだが失敗なのだという。思い通りにいくことよりメンバーの創造性を優先した結果である。ジャズの本質は即興ということにあるから、「思い通り」のものができてもしょうがないわけか。
マスターテープの不具合でA面3曲のピッチがおかしかったという話がある。'92年頃から正しいピッチのCDが出始めたようだが、僕が持っていた古い方のCDと今回買ったものを聴き比べてみると、たしかに新しい方がちょっとだけ音が低い。音質も少し良くなっている。
このCD+DVDセットを真剣に聴いたせいで、久しぶりにジャズがマイブームになった。最近ジャズばかり聴いている。ジャズはiPodのイヤホンじゃなくてスピーカーで聴きたい。スピーカーからジャズが流れるとジャズ喫茶にいるような気がしてくる。
「Jazz In The Garden」 The Stanley Clarke Trio ― 2009年05月31日
アマゾンのUS盤(12曲2091円5/12発売)の商品説明によると、スタンリー・クラークさんは「今までいろんな人のレコードでアコースティック・ベースは弾いたけど、考えてみるとアコースティックのトリオで自分のレコードを作ったことが無かったので、ペースが良く聴こえるピアノ・トリオがやりたくなった」ということのようである。そういうのは僕も聴いてみたいと思ったので買うことにして、ピアノは誰かいなと見れば上原ひろみなのだった。
ところで、アマゾンの日本盤(13曲2500円4/15発売)の説明にはそういう話は全く書かれておらず、「上原ひろみのストレート・ジャズ作品」みたいな扱いになっている。なるほど、そう書いた方が日本では売れるのだろうけど、ちょっと強引ではなかろうか。ベースを聴かせるというコンセプトなんだから、上原ひろみはかなり控えめに弾いている。そこが普段と違って面白いとはいえる。
曲は色々で、スタンリー・クラークの曲と上原ひろみの曲があり、スタンダードもあり、「さくら さくら」とかレッチリのカバーとか多様。最初は何がやりたいのか判り難い感じがしたのだが、何回か聴いているうちにわりと良いのではないかと思うようになり、聴けば聴くほど気に入ってきた。スタンリークラークの様々なテクニックもじっくり聴けるし、バンドの息もあっているし、曲も良い。ただ、アコースティックのストレートなジャズにしてはリズムがかっちりしていて、ノリがフュージョンっぽいような気がする。
「ゲット・アップ!」 神保彰 ― 2008年07月05日
昔のカシオペアみたいだ。曲の雰囲気が似ていて、なんか懐かしい。違うのはキーボードがシンセじゃなくて生ピアノであるところ。みんな上手いからパッと聴いた感じはなかなか良い。でも、何回も聴いていると段々何かが足りないような気がしてきた。
同じようにギター、ベース、ドラム、ピアノでバカテクのフュージョン・バンドをやっている上原ひろみの曲を聴いているときに判った。神保彰の曲はなんかマジメで物足りないのである。上原ひろみの音楽にあるような毒が無い。どんなジャンルでも作品には毒があってこそ嗜好品にもなり得るのだし、うまく使えば薬にもなったりするわけである。
最近、神保彰のドラム教則DVDを買ってみたのだが、とんでもない超人的なテクニックを追求していて呆れた。神保師匠の超絶テクには毒があるのだ。誰かのバックでドラムを叩くのはイヤなんだろうか。その方が師匠のドラムが活きると思うのだけど。
「ビヨンド スタンダード」 上原ひろみ ― 2008年06月13日
ジャズのスタンダード曲の他、ドビュッシー「月の光」、「上を向いて歩こう」、ジェフ・ベックなんかをカバーしていて面白い。スタンダード曲なのである意味ポップなアレンジになっていて、今までの自作曲のアルバムより聴きやすい。特にファンクな感じの「上を向いて歩こう」が気に入った。「SUKIYAKI」じゃなくてちゃんと「UE WO MUITE ARUKO」と表示しているところも良い。
このバンドはアンサンブルが非常に良い。各自上手いのだがチームプレイに徹しているようで、フレーズも音色もバランスが取れているし、リズムもバンド全体としてうねるようなグルーブがある。録音も良い。クリアな音で活き活きと立体的に聴こえる。これは名盤でしょう。
「Time Control」 上原ひろみ ― 2007年03月01日
エレキギターが加わってチックコリアエレクトリックバンドみたいになった。これまでの3作からかなり進化しているような気がする。
アルバムタイトルと曲名のほとんどがTimeという言葉で始まっているという、統一感の強いコンセプトアルバムだ。時間というひとつのテーマでこれだけ多彩な曲を作ることができるというのは素晴らしい。
曲もそれぞれなかなか良くて、つまらない曲がない。リズムがカッコイイし、メロディはユニークなうえにちゃんと歌っているし、演奏はバカテク。これは名作でしょう!
「cure jazz」 UA × 菊地成孔 ― 2006年09月04日
UAはボ・ガンボスの曲を歌っても童謡を歌ってもUAの世界になってしまって凄いのだが、このジャズアルバムはもうひとつだった。全体に都会的でお洒落な雰囲気を出そうとしているところがいけないんじゃないか。UAのオリジナリティは動物的というか土着的なパワーを洗練したような表現にあるのであって、都会的洗練を目指したらそっちにはもっと上がいっぱいいるだろうという気がする。このアルバムの中でもクールな曲じゃなくてアフロな感じのリズムの曲では良さが出てると思う。
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