「megaphonic」 YUKI2011年09月02日

今までのYUKIのアルバムではエレクトロポップの曲とバンドサウンドの曲が半々くらいに分かれていたが、今回はその区別があまりなく融合している。それは、どの曲もエレクトロポップとバンドサウンドの中間に歩み寄ったアレンジだからだ。このやり方は成功していると思う。アルバム全体にまとまりがあるし、どの曲もポップで良い。行き詰まった感じのポップミュージックの世界で、YUKIが新たな地平を開拓した感じがする。

打ち込みのバンドサウンドに一人多重コーラスを入れるというのは、達郎さんがずっとやってきたことである。実際に聴いた感じが達郎と似ている曲もある。でも、僕はタツローの打ち込みサウンドには不満を感じるのだが、YUKIの場合は大満足である。この違いはどこからくるのか?

YUKIの音楽は文学でいうとファンタジーというか非リアリズムの世界で、そこがエレクトロポップのデジタルサウンドにぴったり合うのだが、達郎はリアリズムなところが合っていないような気がする。達郎さんがエコー控えめなせいでそう感じるのかもしれない。

「Ray Of Hope」 山下達郎2011年08月15日

デジタル録音・CD発売になった「Pocket Music」以降の達郎さんのアルバムは全部同じような雰囲気がある。常に打ち込みを多用した演奏で、バンドサウンドじゃない。完成度は高く音もとてもクリアだが、分離が良すぎて聴くのにパワーが要るような気がする。何回聴いても昔は良かったと思ってしまう。この残念な感じは何かに似ていると思ってよく考えてみると、ミスタードーナツの店舗の内装が板張りからプラスチックに変わってしまったことだと気付いた。

最近のインタビューで、「今後ファンクやギターのリフに戻りたい、すべて生でやりたい」と言っていたので、大いに期待してます。

「The Present」 YUKI2010年12月15日

YUKIのライブ。曲間のおしゃべりで「上手にではなく、心をこめて歌います」と言っているが、たしかにそのへんの妙に上手いだけの女性ヴォーカルとは違った表現力がある。イノセントからワイルドまで声の色の幅が広いので聴いていて飽きない。

このライブは25人くらいのオーケストラ付きというスペシャル企画。オーケストラというからクラシカルなアレンジなのかと思ったが、普通のバンドサウンドに生のストリングスやホーンを加えただけ。ストリングスはレコードどおりで良いのだが、ホーンはちょっと昭和歌謡みたいだ。スイングジャズの「恋愛模様」なんかは良かった。

スティングとかくるりもオーケストラと一緒にやっているように、これからこういう企画は増えるんではなかろうか。シンセサイザーより生のストリングスやホーンの方が良いに決まっている。

「うれしくって抱きあうよ」 YUKI2010年03月15日

ここ数年、僕が一番よく聴いている音楽はYUKIの「joy」と「WAVE」だった。ポップなのに訳の判らなさがあって、不思議と飽きない。このアルバムも前2作の延長線上にあるのだが、何か新しい世界に到達しているような気がする。何となく音が明るいし、良い曲が多い。

前作までは夜眠っている間に見たカラフルな夢を音で再現しているような感じだったが、このアルバムは昼間の世界を表現しているような印象を受ける。そう思って曲名を見てみると、1曲目が「朝が来る」で最後が「夜が来る」だから、やっぱり昼間のことを歌っているのだ。しかし、なぜ音を聴いただけでそう感じるのだろうか。音が分厚い代わりにエコーが浅いからかもしれない。

ロックやエレクトロ・ポップの曲が減って、普通のポップの曲が増えた。これはつまりサウンドに占めるヴォーカルの比重が大きくなったということだ。ビッグバンドジャズの曲なんかもあって面白い。「葭屋猪黒大宮へ」という歌詞は、何かと思って調べたら、京都市内の南北の通りを覚える歌だった。

「音楽堂」 矢野顕子2010年02月18日

奥さんから借りて聴いてみた。ピアノ弾き語り。矢野顕子の弾き語りは抑揚の付け方が独特だが、どれも同じに聞こえてあまり面白くない。コアなファンにはそれが良いのだろうけど。

スタジオじゃなくてホールで録音していて、ピアノの音が遠いがヴォーカルは近いという変なサウンド。名エンジニアが録っているというので期待して聴いたが、僕は聴き難いと思う。

「ドラマチック」 クラムボン2009年12月04日

この前、娘が国語の教科書に出てきた「やまなし」の話をしていて、息子が「クラムボンは死んだよ」というセリフを言った。どういう話だったかなあ。何か水の中の話でやまなしが発酵して良い匂いになるということだけを思い出した。

次の日に週刊誌を読んでいたら誰かのエッセイに「注文の多い料理店」が出てきて、そういえばアマゾンの「おすすめ商品」に「銀河鉄道の夜」もあった。どうも宮沢賢治さんが僕のアンテナに引っ掛かっているようだ。銀河鉄道は昔読もうかと思ったが暗そうなのでやめた記憶がある。「やまなし」や「注文の多い料理店」を読みたくなり、短編集を買おうかと思ったが、ふと思い出して「青空文庫」を探したらあった。短編ならオンラインで読めば良い。

読んでみると面白かった。イメージが鮮やかで五感に訴えかけるものがある。宮沢賢治って生前は全く評価されなかったのか。今でいうと宮崎駿じゃないか。それにしても、「クラムボン」って何?

そういえば、そういう名前のバンドがあったなあ。クラムボンのミトというミュージシャンの名前を木村カエラやYUKIやコトリンゴのアルバムで見掛けた記憶がある。調べてみるとピアノトリオのバンドで面白そうである。

試聴して気に入ったので「ドラマチック」というアルバムを買った。生ストリングスの入ったアレンジが壮大で良い。パワフルで表現のダイナミックレンジが広い感じがする。騒々し過ぎる曲もあるが、なかなか面白いサウンドだ。


「魂のゆくえ」 くるり2009年11月23日

「くるり鶏びゅ~と」はイマイチだったが、岸田繁の曲は良いなあ再認識したので新作を聴いてみる。このサウンドは奥田民生の名作「股旅」に良く似ている。旅がコンセプトの気だるいロックで、カントリー風の曲が混じっているところとか、オルガンの使い方とか、かなり近い。

なかなか良い曲が揃っているし、アレンジも肩の力が抜けた感じで良い。くるりのアルバムの中では一番気に入った。

「This Is The One」 Utada2009年05月20日

宇多田ヒカルのアメリカ向けアルバム。3月に発売された日本盤は3000円もするのだが、5月発売のUS盤を待つと1550円で買えた。3000円なら買わなかった。日本のCDはなんでこんなに高いのか。

宇多田ヒカルの好きないわゆるR&Bアレンジでミディアムテンポからスローな曲ばかりである。以前の彼女のアルバムにはこういう曲が何曲か入っていて、僕はチープな音のリズムトラックが好きじゃないので悪いけど飛ばして聴いていた。最近はR&B志向が消えて全編ポップになって良かったなあと思っていたのだが、こういう風に仕向け地を分けて出してきたわけか。

インタビューで「日本で発表している曲に英語詞を付けるのではなく、別の曲にするのはなぜか」と訊かれて、「言葉の持つメロディは言語によって違うから」と答えていた。そこまで深く考えている人は世界でもなかなかいないだろう。そもそもバイリンガルの作詞作曲家で、全く異なる2つの言語圏で勝負できるくらいじゃないと、そんな問題に直面しない。

ボーナス・トラックの「Simple and Clean」は「Deep River」という曲を作り変えたもの。「どんな~ときだって・・・」というサビのメロディは削ってしまってアレンジもR&B寄りに変えているが、ポップな雰囲気も残っていて面白い。でも元のままの方が良いなあ。まあこのアルバムはアメリカのR&Bファンに向けて作っているのだろう。

ところで坂本龍一のMerry Christmas Mr. Lawrenceを引用した曲があって、メロディを原曲からちょっと変えてあるのが気になる。これは落ち着かない。

「YUKI Concert New Rhythm Tour 2008」 DVD2009年04月03日

YUKIのライブを見てみたかったので、去年DVDを買おうと思ったのだが、アマゾンのユーザーレビューですごく評判が悪かったので見送った。曲がカットされていたりして、編集が良くなかったようだ。今年出たのは良さそうなので買った。

大体CDと同じアレンジで、意外にバンドサウンドで勝負している。良いバンドだと思う。曲が良いしYUKIも楽しそうに歌っているし、ハッピーな気分になれそうなライブだ。名曲「JOY」のアレンジが凝っていてカッコイイ。

ステージの背景に映されている映像がオマケに付いている。僕はライブ映像以外のミュージックビデオが好きではないのだが、見てみるとなかなか良かった。じっくり見るとすごく手間ヒマがかかっている。バックに流れるライブ演奏との組合せも面白い。

YUKIはステージでは子どもみたいにニコニコと歌っているが、メイキング映像を見るとプロデューサーでありバンドのリーダーとしてみんなを引っ張っている。シュールとリアルが両立した面白いキャラクターだ。

「TOUCH」 土岐麻子2009年02月13日

だいぶ前、毎月タワーレコードに行って試聴機を聴きまくっていた頃に、シンバルズというバンドが気に入ってデビューアルバムを買った。そのシンバルズのボーカルだったのが土岐麻子。お父さんは山下達郎のバックでソプラノサックスを吹いていた土岐英史。

シンバルズは面白いバンドだったがわりとすぐに解散して、土岐麻子はジャズやポップを歌うソロ歌手になった。シンバルズのポップなパンクサウンドに乗っているときの方が彼女の軽い声が活きていたので惜しい。

最近、日産のCMでビル・エバンズのワルツ・フォー・デビーに歌詞をつけて歌っていたのはなかなか良かった。本人出演のユニクロのCMの曲「How Beautiful」もかなり良い。その2曲が入っているので全体的にそういうサウンドになっているかと期待して、この「TOUCH」というアルバムを買ってみたが、他の曲は相変わらずだ。本人のボーカルは良いのに、曲やアレンジに恵まれていない。なんか’80年代みたいなサウンドが多い。電子ドラムの音までする。

それと、この人のアルバムはなぜか曲が少ない。今回は10曲あるが、「smilin'」は去年のアルバム「Summerin'」に入っていたのと全く同じ音源だし、「ブルーバード」は多少アレンジ違いながらソロ1作目「Debut」に入っていた曲だ。もっと濃密なアルバムが聴きたい。